ダメラボ

ロスジェネのダメなおっさんが色々と妄想していますよ

ブログに悪口を書くのは難しい。大人はズルイって話

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今日のお話は私の妄想だと思ってお読みください。読者さんがなんらかの実在の組織や団体を連想されたとしてもそれは気のせいです

妄想小説家ダメラボ

恥の多い人生を歩んできました

むかしむかし、私は生涯で一度だけ小説というものを書いたことがあります。そして文学賞に応募しました。生まれて初めての経験です。後にも先にもその一度だけ

 

その名はF書院文庫(仮名)官能大賞

 

目的は賞金。100万円ね、100万えん、めちゃ大金でしょ

そして私は官能文学界に新たなる潮流を作ろうという野望を抱いたのです。目指せ団鬼六!

その時の経緯はブログの初期に書きました。嘘っぽい小説風に書いてるけどほぼ実話です

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 内容を簡単にまとめると

  • 13万文字のウルトラスペクタクルなエロ小説を苦心の末、完成させる。速攻応募

 

  • 多数の応募者の中から一次選考、二次選考を突破して最終候補の四作品に残る。うひょひょ~ しかし落選。がちょーん

 

  • 編集者から連絡があり「このイカれた応募作を電子書籍化させてもらえないか」と誘われるも電子書籍は印税が安いと聞いて断る

 

ざっくりまとめるとこんな感じです。まあ普通の内容

ここまでならよくある……とは言わないけどそれなりにある話です

 

ただし、この話は色々と端折って綺麗にまとめています

この記事には書いてないけど電子書籍化を断った後にひっくり返るような出来事がありました

 

なぜその時は全部ぶちまけなかったのか? 

 

そこまで書くと記事が長くなりすぎるからです、というのは建前でそれ以外にも理由はありまして、それが今回の記事タイトルにもなってる『ブログに悪口を書くのは難しい』

 

ブログに悪口を書くのは難しい?

物事を文章化する作業はどうしても書き手を冷静にさせてしまいます。特にノンフィクションを他人の目に触れる形で書く場合は事実と憶測を区別して書く必要があります

そうすると書き手の伝えたい感情や正当性が正しい温度で読者へ届かないかもしれない。特に法律上の違反でなく道義的な問題を糾弾する場合は

 

しかし今回はそれにあえて挑戦してみようと思う

 

今日の話はもし読者の中に小説家を目指す人がいた場合は編集者と付き合う上での心の準備にもなる話です

 

ちょっと硬い感じになったけど何があったかぶっちゃけると

 

電子書籍化を断った二ヵ月後に私の応募作の設定をパクりまくった新作小説がF書院(仮名)より発表されました。とある新人作家のデビュー作として

 

おい、マジでふざけんなよチクショー!!

 

文庫本一冊の文字数は10万文字以上は必要です。小説は一週間やそこらじゃ書けません。書籍にするならなお時間がかかる

つまり私が電子書籍を断ってすぐにパクリプロジェクトが始動したということになります

当時、私は担当の編集者に

「電子書籍が大したお金にならないのであれば、この作品は記念として大事にとっておきます」

そう言って断ったのです。それを最後に彼とは連絡を取ってませんでした

 

裏切りやがったなクソ野郎!

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そもそも設定をパクるってありなん?

まずフォローしたくないけど一応フォローしときます

 

他作品の設定やそれに付随したアイディアの使用は著作権法ではなんら問題ありません。盗作とはあくまで『他人の作品の一部または全部をそのまま自分の作品として発表する』行為です

第4回 盗作しても著作権侵害にはならない?-「アイデア」と「表現」の分かれ目:ネットだから気をつけたい! 著作権の基礎知識|gihyo.jp … 技術評論社

パクられた小説の中身は別人が書いてるので当然文章は別物です。設定が同じというだけ。ストーリーも違う。もう一度言うけどなんら問題はない

 

腹が立つけど事実です

 

当たり前っちゃ当たり前ですね。創作物語の設定なんてどうしても似かよってしまいますからね。これがダメならドラゴンクエストもドラゴンボールも生まれない

 

しかも官能小説なんてエロがメインなのでなおさらバリエーションが少ない。設定が似ることはある

なんだよストーリーは違うのか、設定が似てるだけ?だったら文句を言うんじゃないよ、という話ですが、

 

それにしても限度があるだろって話ですよ

 

まず自分は設定を決めるにあたりかなりの業界分析を行いました。エロを求める読者は細部にこだわるからね。そのへんの内容は前回のブログに書いてます

 

簡単に言うと超頑張ったわけです

 

せめて少しは誤魔化せよと言いたくなるほど堂々としたパクリっぷり

私の設定は当時のフランス、間違ったF書院の刊行物の中では比較的少ないジャンルです。流行からズレてましたからね。恐らく同社から数年は出てない。それを意図して書いたので間違いないです

にも関わらず件の小説は設定やキャラの家族構成どころかメインヒロインである姉妹の年齢は1歳ずらしただけ、ヒロインの一人なんて所属してる部活と名前が漢字まで同じという舐めっぷり。偶然はありえない

 

喧嘩売ってるのかな。誤魔化す気がまるでない感じられない。もしや挑戦状?

 

私の最終候補作の論評はF書院のホームページに掲載されています。当然あらすじや設定なども書かれています。そうでなくても私が郵送した原稿が残ってるはずです

 

私は彼らに文句をぶつける正当性はない。当然ですルールには違反してないから

 

でもね応募者を舐めすぎです

 

エロスにおいて設定というのは作品の軸になります。これをここまで堂々とパクられたら創作に携わる者は意欲をなくしますよ。隠す気がない時点で馬鹿にしてるとしか思えない 

どうしてここまで設定を寄せたのさ、もうちょっと変えてくれれば『まあ、あるよね…』で済ませることもできたけど

 

まるで私にアピールするかのようなパクリっぷり

 

ちなみにここまで読んだ人の中にはその小説を晒せと思った人がいるかもしれない。それはしません。悪いことをしたわけじゃないですからね

 

でも気に入らないのは事実です。だからこうやってブログにしてる。浮気された女性が「浮気するならバレないようにしろ!」と怒る気持ちと似ているかもしれない

 

それにもう一つ理由があります

ここまで細かい設定を似せているという状況から新人作家が自分の意思でやったとは思えないのですよ

 

だって普通はバレたくないからもっと誤魔化すでしょ

 

もし新人さんが勝手にやったとしても私の担当だった編集者が当然気づくはずです。F書院の刊行数は月に6点ほど、つまり編集者の目に止まらないわけがない

つまり

状況的にみて新人がこの設定で書かされたと考えるのが自然です

どうしてこれほど私の設定にこだわったのかはわからないけど

 

だから作家を叩く気にはなれない

 

とはいえ作家本人が何も事情を知らないというのはたぶんないと思う。その理由は次の項で書きます

気づいたきっかけ

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アマゾンです

何気なくF書院の新作をチェックしていたら見つけました

 

表紙の画像を見た瞬間

 

え!? なんで俺がデビューしてるの!

 

と思わず変な声が出てしまった

そう錯覚してしまうくらい設定そっくり。官能小説はタイトルでほぼ内容や設定がわかりますからね。しかも主流じゃないジャンルなので目立つ。さらに最終選考が終わって2か月後のこのタイミングで新人がデビューしたとの売り文句まで書かれてる。へ、俺のこと?

 

おまけに表紙に描かれたイラストがとあるスポーツのユニフォームなのですが、私が作中で描写したまんまの配色のデザインですよ。偶然はないっちゅーの

 

自分の作品と間違えてしまったのは当然です。あらすじを読んで更にビックリ。

 

…まんまやん。なんなんコレ…

 

主人公の立場や性格等は違う、しかしメインとなる設定がそのまま過ぎる。私の作品を意識して書いたのは明らかです

 

そして、アマゾンですから当然スター付きで読者の評価が書かれています

 

それを読んで悲しくなりました

予想はしてたけど評価は悪いです。それに関してはまあいい

2人目の感想がトホホですよ

 

2人目の感想を書いた人はコアなF書院ファンのようです。つまりエロ紳士。ダメ出しが官能小説愛に溢れていて的確。短所を遠慮なく指摘するけど書き手に対して愛情もある

ぶっちゃけ私の担当編集者よりも説明能力が高い

当然そんなマニアなファンだから最終選考の論評もチェックしてたようです

感想欄には

 

『微妙にストーリーが違うが、第〇〇回のF書院官能文庫大賞で最終選考に残った作家のデビュー作だろう』と書いてました

そりゃ間違えるよな、俺が間違えたくらいだから

 

文末には「うーんイマイチだけど新人だしこれからに期待!」なんてお優しい言葉で締めてましたよ。仏陀かよ

 

俺は叫びたかった、「違うんです俺のエロスはこんなにチンケじゃない!これは偽物だ!」

 

官能小説はこういった根強いファンに支えられてこの出版不況でも売り上げが堅調なのですよ

作家や編集者はアマゾンの評価を見てますからね、彼らはこれを読んでどう思うのでしょうか

 

あのエロ紳士に謝って来い。タコ助ども

まとめ

どうでしょうかね。ありのままに事実を書いてみました

私が最も心配してるのはこの話を読んだ人が私のことを

 

被害妄想に憑りつかれたヤベー奴だと思うことです

 

京アニのイカれたサイコ野郎も似たようなことをほざいてましたからね。でも自分は違うよ!信じてちょ

 

ちなみに友人はアマゾンのパクリを見て激怒してF書院に電話をかけようとしたので慌てて止めました。その程度には似てます

 

こうやって文章にしてて気づきましたが、私が最もイラっとしたのはパクられたことよりもパクリ方ですね

 

巧妙にぱっと見でわからないようにやってるなら悪気が感じられてまだ許せた。しかし堂々とやってのける姿勢は相手をみくびっていないとできません

私はビジネスで舐められるのはあんまり好きじゃないですね。利害関係のない相手ならなおさらです

 

思い返してみると私は編集者に対して下手に出過ぎたかもしれない。一応自分は営業もするので仕事では相手に関係なく行儀よく接します。でもやり過ぎたかも

結果として「コイツならこれくらいやっても構わないだろう」と思われた可能性がある

これは自分が反省すべき点かもしれません

 

いやー電話やメールでしかやり取りしないから加減が難しいんですよね。対面だと調子に乗り過ぎた相手には「そのへんにしときましょ」と言えばいいけど

 

もし作家を目指す人で今後編集者とやり取りする人がいればまず最初にこう言いましょう

 

設定パクったらぶっ飛ばすからな

 

編集者だからといって必要以上にへりくだることはありません

また一般の会社がそうであるように出版社にも残念な編集者がいます

新人は担当を選べないからこそ、ある程度強気で対応すべきです。でも礼儀は大事です。喧嘩腰ではなく毅然と接しましょう

 以上、ダメラボの妄想劇場でした

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【ロング・グッドバイ】を再読したけどやっぱり面白い:おすすめハードボイルド海外小説

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買ってから3回目の再読です。レイモンド・チャンドラーの代表作

淡々と、それでいて洗練された文体はするすると読めてしまう。作品世界に没頭するというよりも上質な映画を観ているように楽しめる作品です。小説のこういう楽しみ方を知れたのはこの作品のおかげ

清水訳と村上訳の2作ある

日本ではロング・グッドバイの以前に『長いお別れ』というタイトルでも作品が発表されています

この2作の内容は同じです。違いは訳者

 

  • 『長いお別れ』訳者:清水俊二 初版1958年
  • 『ロング・グッドバイ』訳者:村上春樹 初版2007年

 

清水俊二は映画の字幕翻訳を2000本近く手がけた大御所です。戸田奈津子の師匠としても有名。海外小説の翻訳にも多数携わってます。私が知ってる作品だと『麗しのサブリナ』とか『そして誰もいなくなった』

チャンドラー作品の翻訳はほとんどがこの人だったと思う。違ってたらすまん

 

村上春樹は言わずと知れた超有名作家ですね。毎年ノーベル文学賞の候補に上がってる人。『ノルウェイの森』『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』『ねじまき鳥クロニクル』代表作を挙げたらきりがない。ちなみに私はねじまき鳥が好き

村上春樹は作家活動だけでなく翻訳もしています。私が好きな作品だとトルーマン・カポーティの『誕生日の子供たち』、フィッツジェラルドの『グレート・ギャッツビー』がそうです

彼はチャンドラーの大ファンです。作家として影響を受けたことを公言しています

そんなわけで本作に限らずチャンドラー作品の翻訳を多く手がけてる

 

つまりチャンドラー作品は清水訳と村上訳が日本では出回ってます。タイトルは同じ場合もあればちょっと違うものもある

 

賛否両論あるようですが、私は清水訳も村上訳も好きです。英語はさっぱりわからんけど、どっちも楽しめました

 

今回は村上訳のロング・グッドバイを紹介します

 

超有名作だから知ってる人も多いと思うけど知らない人に少しでも魅力が伝われば

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帯の推薦文は世界のカズオ・イシグロ。ノーベル賞作家です

まずは簡単に作家と作品紹介から

著者はレイモンド・チャンドラー

ダシール・ハメットやジェームズ・M・ケインと共にハードボイルド探偵小説の生みの親といわれる作家の1人です

こう書いてもピンとこない人は私立探偵フィリップ・マーロウの生みの親といったほうがわかるかもしれません。ハードボイルドな探偵キャラの中ではトップクラスの知名度がありますからね

チャンドラーはマーロウを主人公にした作品を長、中編と合わせて9作以上発表しています。ロング・グッドバイはその中の一つです。発表されたのは1954年

 ハードボイルド

ハードボイルドな男といえばトレンチコートを着てバーでグラスを傾けるイメージがあるんじゃないでしょうか。あれはハンフリー・ボガード演じる探偵フィリップ・マーロウの映画『三つ数えろ』から出来上がったイメージです(厳密にはもう一作品あります『マルタの鷹』。ダシール・ハメットの探偵小説が原作です。この映画もハンフリー・ボガードが主演を務めています)。原作はシリーズ初期の『大いなる眠り』

ちなみに作中ではバーのシーンはあってもトレンチコートを着たシーンはなかったような……。もしかしたらあるのかもしれないけど定番シーンになるほど頻繁に登場するアイテムではないです

なんて偉そうに言ってるけど自分が読んだのは5冊だけですが…

 誰もが知ってる有名な台詞を紹介

フィリップ・マーロウのシリーズに出てくる有名な台詞を三つ挙げます

 

『武器を返してやる、清掃、充填済みだ。だがいいか、撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ

『大いなる眠り』より

 

「あなたの様に強い人が、どうしてそんなに優しくなれるの?」というヒロインの問いに対して。

タフでなければ生きて行けない。優しくなければ生きている資格がない

(訳者によって微妙に違います) 『プレイバック』より

 

さよならをいうのは、少しだけ死ぬことだ

(訳者によって少し違う)『長いお別れ』『ロング・グッドバイ』より

 

『さよならをいうのは、少しだけ死ぬことだ』

痺れるセリフだけど私が使うことは一生ないでしょうね

この台詞については少し補足を加えます。その方が良さがわかるので

19世紀のフランスの詩人、エドモン・アクロールの詩が元ネタです

 

さよならすること、それは少し死ぬこと

それは愛するものへの死

いつでもどこでも、人は自分自身を少し残して去っていく

『さよならの詩』より

 うーんまさにハードボイルド。詳しい説明は野暮なので省くぜ。そのままの意味だぜ

 

人は別れる時、少しだけ自分を置いて去っていく

 

彼女に振られた時に使ってみましょう

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あらすじ

テリー・レノックスとの最初の出会いは〈ダンサーズ〉のテラスの外だった

こんな独白から始まるマーロウとレノックスの最初の出会い。舞台はロサンゼルス、1949年

 泥酔したレノックスを介抱したマーロウは彼の物腰から漂う品の良さ、どこか危うく儚い魅力に惹かれ飲み友達となります

顔に大きな傷のあるレノックスの妻はアメリカでも指折りの大富豪の娘でした

なにやら複雑な事情を抱えてそうだが多くを語らないレノックス。マーロウも詮索しない

行きつけのバーで静かに杯を重ねる2人

 

1950年のある日、深夜にマーロウの自宅を訪れたレノックスはメキシコのティファナへ行くので空港まで送って欲しいと頼み込む。レノックスは憔悴しきった様子。何かあったらしい

しかしマーロウは事情を深く聞かずに彼を送り届けます

自宅に戻ったマーロウを待っていたのは妻殺しの容疑でレノックスを捜している2人の刑事でした

レノックスの共犯だと疑われたマーロウ。彼は留置所に叩き込まれます

しかしマーロウはどれだけ酷い扱いを受けても、取調べではレノックスを庇い黙秘を続けるのでした

3日後、メキシコからレノックスが自殺したという情報が届く。罪を自白する遺書も残されていたという

それによってあっけなく事件は解決し、マーロウは釈放されます

レノックスが自殺?、唖然としたまま自宅に戻ったマーロウ。家には生前のレノックスから一通の手紙が届いていました。そこに書かれた内容とは……

見どころ

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まずいつもの褒め言葉ですが、素晴らしい作品はどれだけ古典でも古びない。この作品もそんな作品の一つです。作中では1950年のロザンゼルスが描かれているけど垢抜けた現代的な街並に思えてしまう

ボリュームたっぷりの小説です。かなり分厚いハードカバー。しかし構成が巧みで話が常に動いているので飽きて途中で読むのを止めてしまうことはない

 

強引に幕引きされた友人の事件。その後、マーロウはとある出版社からの依頼を引き受けることになるのですが、そこで起きた出来事が意外な進展をみせ…

 

作者のチャンドラーはパルプ・マガジン出身の作家です。パルプ・マガジンとはアメリカで広く出版された安価な大衆向けの雑誌の総称。大衆誌なので掲載作は低俗の謗りを受けることがあったらしい。しかしそれは言い替えれば大衆に飽きさせない構成に特化した作品を作り上げてきたともいえる

雑誌で腕を磨いたチャンドラーの卓越した構成力がロング・グッドバイでは遺憾なく発揮されています

展開は早く、登場人物は多いし好き勝手に動き回ってる感じですが最終的に一つの物語を形成していく……ようなそうでもないような、まあそこは置いておいて

 

読後は感傷的な気分にさせられます。すっきりとしたラストです

後味はビターだけど決して悪い気分じゃない

 

最後、マーロウととある人物のやり取りは控えめに言っても名シーンです

 

もし村上春樹の作品が「終わり方が尻切れトンボで苦手」と感じてる人でも安心して楽しめますよ。この作品はあくまでチャンドラー作品で村上氏は訳者ですから

 

さっきチャンドラーはパルプ・マガジン出身と書きましたが、文章は滅茶苦茶洗練されています。そのおかげで登場人物はクズい奴も含めて非常に印象に残るのです。台詞回しがいちいち洒落てる

主人公のマーロウは一見無口なハードボイルド野郎だけど、口を開けば皮肉屋だし案外感傷的で女々しくもある。これは読み直したことで気づいた点です。最初に読んだ10年前はハードボイルド小説を読んでいるという先入観があって実体以上にマーロウをクールな男だと捉えてしまいました

ところが読み直すとそうでもない。意外と短気だし流せばいいようなことまで噛みついてしまう。結構うざい

 

もしかしたらこの10年で私の方ががハードボイルドに成長したのかも…

 

人によってこの小説の楽しみ方は色々とあるはずです。純粋にストーリーを追うのもよし、主人公のマーロウ視点で没入するもよし

私はマーロウ視点で彼を含めた様々な登場人物の群像劇を観るような感覚で物語を読み通しました。それほどモブキャラを含めて魅力的に描かれているのです。作品の都合で生み出されたような単純なキャラは1人もいません

 

読み終わると濃密な時間から解放されたような心地よい徒労感がある

 

特にロング・グッドバイはチャンドラー作品の中でも傑作の呼び声高い名作。当時の主流文学にミステリーを混ぜることに成功した作品です。それでいて堅苦しくなく、世界中の本好きが納得するだけの娯楽性が詰まってます

 有名だから批判もあるよ

チャンドラーは今日では大変評価の高い作家ですが、もちろん批判もあります。批評家だけでなく、アマゾンでもよく書き込まれるダメ出しに

 

物語が散漫で一貫性がない

 というのがあります

 

これね、たしかにそうなんですよ。読み終わってストーリーを思い出してみると『よく考えたらあの展開って別にいらんよね』と気づくことがある

またマーロウ作品はシャーロックホームズのように超絶な観察眼と推理で事件を追うような物語ではないです。どちらかというと巻き込まれて目の前の出来事を処理していくうちに真実へと繋がるという話が多い。話の中には余計な寄り道もある。一貫性がないと言われればそうかも

 

でも、読んでる最中は気づかない。どのシーンも無駄なく面白いから夢中で読んじゃう

 

私には散漫で一貫性のなさが物語に厚みを出してるように感じます。もちろんこれはチャンドラーの叙情的な文章、シャープでウィットに富む喩え表現があってこそですが

まとめ

本書の最後には訳者である村上春樹のあとがきが書かれています

これがなんと40ページ超もある。もうこれでもかとチャンドラーとロング・グッドバイの魅力を語っています。また翻訳する上で注意したことなどが細かく書かれてる

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本当にチャンドラーが好きなんだなと感じられて特にファンでもないのに私までなんだか嬉しくなります。熱烈な思いがひしひしと伝わってくる

英語のことはさっぱりわからないけど、これだけ楽しそうに作品を語る村上春樹が真摯に訳したのだからそれだけでも読んでみる価値はあると思う

というわけで読んだことない人にはおすすめしますよ

おしまい

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【重力が衰えるとき】近未来イスラム世界を描いたサイバーパンク小説の傑作:おすすめSF小説紹介

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ネットでおすすめのSF小説を検索すると必ず挙がっている作品

未来のイスラム都市、ブーダイーンを舞台にしたハードボイルド小説です

イスラム圏のSF?と思う人もいるでしょう。確かにこういう設定のSF小説は少ないかも

未来技術がもたらす人々の倫理観の変化と、それを教義に収めてどうにか解釈しようとするイスラム社会の対比が面白いです。ドラッグや犯罪が蔓延する退廃した未来感がいかにもなサイバーパンクっぽい世界観を作り出しています

全三部作ですが、この作品だけでストーリーは完結しているので十分に楽しめます

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抽象絵画のような表紙と変わったタイトルが目を惹きますね。机の上に置いとくだけでもお洒落。この装丁は新版です。昔の表紙はもっとコミック調だった気がする

著者はアラブ系アメリカ人のジョージ・アレック・エフィンジャー

発表されたのは1987年、日本語訳が早川書房より刊行されたのが1989年

意外と古いな。30年以上前の小説になるのか……

私が初めて読んだのは20年ほど前です

現在ではサイバーパンクというジャンルがちょっとレトロで、定番ともいえる電脳移植を描いた作品にも関わらず不思議と読んでいても古さを感じません

古典といっても差し支えない作品です。それでも古臭さを感じないのは名作に通じる特徴だと思います

ちなみにサイバーパンクの圧倒的代表作といえば、ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』。面白いのでこちらもおすすめ。そのうち紹介します

 

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海外のSF小説は変わったタイトルが多いですよね。タイトルを見ても内容がまったく想像できないし

以前、本を読まない知人が『重力が衰えるとき』の表紙を見て

「こういう本ってさ、どうやって内容を判断して買うの?」

と不思議そうにしていました

言われるまで気づかなかったけど、たしかに

今はネットで内容を調べるからどんなタイトルでも気にしないけど、昔はどうしてたんでしょうね。『重力の衰えるとき』じゃさっぱりわからない

あらすじ

2172年、世界各国が分裂していくつもの小国が興った未来世界

繁栄を誇る犯罪都市ブーダイーンのナイトクラブで探偵のマリードは人捜しの依頼を受けます

しかし依頼主の男は不意に現れた殺し屋によって射殺されてしまう。殺し屋は架空のキャラクター、ジェームズ・ボンドの人格を脳に移植した奇妙な男でした

その日を境にマリードの周囲では近しい仲間や売春婦が次々に惨殺されます。事態を重くみたイスラムマフィアのボス、パパはマリードに犯人の捜査を命じるのですが……

腐敗した犯罪都市で様々な思惑に翻弄されながら事件の核心に迫っていくマリード

 

こう書くとハードボイルドって感じですけど、この主人公はかなりのヘタレです。世渡り上手ともいえる

武器を持たず一匹狼を気取りながら長い物に巻かれる。言い訳しては簡単に信条を曲げます。皮肉ばっかり言ってなかなか行動しません。おまけにドラッグ中毒で薬がないとシャキっとならない

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見どころ

ストーリーとイスラム都市ブーダイーンの文化や日常が半々くらいの分量で描写されています

ストーリーパートは成り行きまかせに事件に巻き込まれていくマリードの姿。マリードに関わる人物は癖があり過ぎて一度登場するとまず忘れません。脳味噌を改造して常にラリってる薬中のタクシー運転手なんて屈指のキャラだと思う

 

ブーダイーンの描写はそこで生きる住民や売春婦の日常であったり、宗教的な背景が丁寧に描かれています。街はとにかくいかがわしく、胡散臭い雰囲気。治安を担う警察も腐敗してます。また人食い人種とか一般的でない人種も多数登場します

自分のようにイスラム圏の文化を知らない人間にとっては外国の空気に触れたようでワクワクして読めました

ただしあくまで架空の未来世界の話なのでイスラム文化を正確に描写しているわけじゃないと思う。例えば性転換が容易な世界なので宗教的に男の扱いが難しく独自の解釈をしている

作中では登場人物が頻繁にコーランを引用し、アラブの格言が飛び交います。『アッラーの思し召しがありますように』等。犯罪都市で飛び交うこれら教義や説教が実にインチキ臭いのです。誰もがイスラム教を信仰しながらアッラーを都合よく利用しているフシがある。生活の知恵ですね、住民たちの逞しく生きる姿には感心します

 未来感を演出するギミックの数々

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神経麻痺銃や立体ホログラム、電気自動車は現実世界で実用化されているので珍しさはないかな

 

やはりサイバーパンクといえば電脳移植でしょう

 

ブーダイーンの住民はほとんどが脳味噌に配線を繋げて人格モジュール(モディ)や拡張機能(ダディ)のソケットを埋め込んでいます。データを購入して差し込むことで様々な人格になりきったり、学習することなく専門知識を得ることができるのです

人格モジュールがあることで望みのキャラクタ―になれるため売春婦にとっては必須のアイテムです。これがあれば客の要望に応えられますからね

この機能を使うことでマリードはネロ・ウルフになりきり事件を推理するシーンがあります。黄色いパジャマや蘭を欲しがるなど芸が細かい

ネロ・ウルフはレックス・スタウト作の有名な私立探偵です。美食家でめちゃ太ってる。動けないのでいつも推理は自室に籠ったまま行います

性別を容易に行き来する人々

ブーダイーンでは多くの踊り子や売春婦が働いています。彼女たちの存在が作品世界の空気を作り出してるといっていい

この世界では骨格を弄ったり性器を改造することが技術的に容易(手術代は高額)であるため、彼女たちの性別はバラエティに富んでいます

完全に性別を変えた者を『性転』、一部だけ手術で弄った者を『半玉』、純粋な女性『本女』等、独自のスラングで表現されてる。ちなみにマリードの彼女は性転した元男です

まとめ

 脳に配線して人格をころころと変えることができる。性別は容易に変更可能

こんな世界だと人間的な弱さを克服するのは簡単だし、アイデンティティを保つのに苦労しそうです

自分が失われた状態、生きがいは希薄になると思う

 

しかし不思議というか、この作品の魅力でもあるのですが、これだけ科学が発達して人々の価値観を変えているにも関わらず、作中に登場する人々はずる賢くて抜け目なくて生き生きとしています。もちろん脳を弄り過ぎて不幸になった人間もいる

主人公や街の住人は技術の進化を享受しながらも相変わらず悩み、人間の弱さを露呈しているのです。その原因は様々。お金、恋人関係、友情、道義信条

 

ありていな表現をさせてもらうと、人間の営みが確かにある

ラストのほろ苦い孤独感なんてまさにそう

 

作品の魅力はそこに尽きるのだと思います

映画化されたら面白そうなんだけどな。有名作だけど不思議とそんな話を聞かないです

どうせならSF大作にせず、タランティーノに監督して欲しい

ちょっと変わった名作SFが読みたい人におすすめする一冊です

おしまい

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青い鳥文庫【三国志】大人が気軽に読めて三国志を理解できる小説。もちろん子供にもおすすめ

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今回紹介するのは一冊に三国志演義を収めてしまった講談社青い鳥文庫の三国志です。発表されたのは1985年

青い鳥文庫は児童書のレーベルですが、この作品は三国志を読んだことがない大人の入門書としてもおすすめです

ちなみに私が紹介する三国志はこういう▼表紙のやつ

三国志 (講談社青い鳥文庫)

三国志 (講談社青い鳥文庫)

 

 

青い鳥文庫の三国志は他にもあるので間違えないようにしてください。新しいバージョンのこっち▼は全7巻です

三国志(1) ~飛龍の巻~ (講談社青い鳥文庫)

三国志(1) ~飛龍の巻~ (講談社青い鳥文庫)

 

 

これはこれで面白いのですが、今回はコンパクトに一冊にまとめられた三国志の魅力を語ります

 

三国志の簡単なあらすじ

有名すぎるのでざっくりと

西暦184年、後漢王朝の末期に起きた黄巾の乱から晋による大陸統一までのおよそ100年を描いた歴史物語。劉備、関羽、張飛、曹操、孫権、呂布……。名を馳せた多くの英雄たちが戦乱の世で大陸の覇者を目指して血湧き肉踊る活躍を見せてくれます。知略、陰謀、裏切りに翻弄される人間ドラマも必見

 

男なら嫌いな奴はいないでしょ

 

ってストーリーです

 

三国志は様々な媒体で親しまれています

有名な映画だと『レッド・クリフ』。コーエーのシミュレーションゲーム『三国志』、アクションゲーム『三国無双』。横山光輝の漫画『三国志』、本宮ひろ志『天地を食らう』、李學仁『蒼天航路』等々

三国志を元にしたゲームやアニメは数え切れないほどあるので知らない人の方が少ないでしょう。ちなみに私はファミコンとアーケード版の『天地を食らう』が好きでした

 

誰でも知ってるとはいえ、意外に原作を読んでない人は多い。そんな印象があります

三国志(正史)と三国志演義

ご存知の方も多いと思いますが三国志には歴史書である正史と、正史をもとにした小説である『三国志演義』があります

正史は三国の歴史を別々に記述したものです。『魏志』『蜀志』『呉志』の3つ

中学の授業で習った魏志倭人伝はこの中の『魏志』の一部ですね

 

正史は晋の歴史編纂官、陳寿(233年~297年)が書いています

晋が魏から帝位を譲りうける形(形式上は)で政権を継いだ王朝ということもあり、正史では魏を正当な王朝として記述しています

 

三国志演義は正史よりもずっと後に書かれたものです。正史の話をドラマチックにして庶民が語りついできたもの。それを編集したのが三国志演義と言われています

 

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編者は羅貫中(14世紀半ばの人らしい)、小説には彼の名前が書かれていますが、実ははっきりしてません。忠義水滸伝の編者ともいわれているけどこれもはっきりしません

 

三国志演義は正史を元にした物語です

おおまかな流れは正史と変わりませんが魏の曹操を悪玉、蜀の劉備を善玉として描いています

また正史では諸葛孔明を宰相としての能力は高いが武将としての知略はぱっとしない人物として記しています

一般的に知られる三国志演義の孔明はなんでもできるスーパー完璧軍師という印象なので大分違いますね

 

つまり大昔の庶民は魏よりも滅びゆく蜀の劉備や孔明にドラマ性を感じて彼らを贔屓した物語を好んだということです

 

つまり今回紹介する作品は・・・

これまでの説明でわかるように本作は正確にいえば三国志演義です

しかし訳者である駒田信二(中国文学者)さんはあえて三国志演義と題さず、通りのいい三国志を使っています

私もそれが正解だと思います。三国志に触れて欲しい子供にわざわざ『三国志演義』と正史の違いなんて説いてもややこしいだけですからね。まずは世間で通りのいい三国志として読ませて、興味を持てば子供が勝手に調べるでしょう。私もその口でした

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本作の魅力

三国志演義という大作を一冊に纏めているこの小説は全訳ではありません。子供向けに編訳したものです。それでも一通りの有名な出来事は網羅しています

ちなみに自分の中で印象深いシーンは、毒矢を受けた関羽が華佗の外科手術を受ける場面です

 

関羽は馬良と碁をしている最中だったので面倒臭いからと言って麻酔をせずに華佗の手術を受けます。簡単な手術じゃありません、腕の骨にしみ込んだ毒を削り取るんだから

 

関羽は碁を打ちながら平然と骨を削られていたのですが。子供ながらに変態だと思いました

 

ちなみにさらっと麻酔とか外科手術という言葉が出てますけど、これってかなり凄い事ですよ。中国の医療技術がいかに高い水準だったのかがわかります。この時の日本はまだ弥生時代です。卑弥呼がいたころじゃないかな

 

話を戻します

 

コンパクトに一冊にまとめていますが、決して事象の羅列ではなくちゃんと物語になってるのも素晴らしい

下手な小説を読むより三国志の全体像を把握できます

 

私がこの本と出合ったのは10歳の頃。両親が契約している保険の外交員さんからプレゼントされました

夢中になって何度も読みました

 

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子供向けに難しい漢字はひらがなで表記してます

安易に優しい表現に置き換えていないのもポイント高いです。気になるなら意味を辞書で調べればいいし、調べなくても前後の文脈からなんとなく意味がわかるような文章になってる

 

子供を読書に慣らすにはうってつけだと思う。大人が読んでも幼稚な印象はありません

 

  • ゲームなんかで三国志を知ったけど、もう少し深く理解したい

 

  • 大まかなストーリーは知りたいけど分厚い全訳や横山光輝の漫画『三国志』を読むのは面倒臭い(あれは全60巻なのです)

 

 そんな人におすすめします

 

まとめ

 恐らくですけど、学生や大人になってから三国志をちゃんと知りたいと思えば横山光輝の漫画『三国志』に挑戦する人が多いのではないでしょうか。小説よりも漫画の方がお手軽だと考えて

 

全60巻とかなりのボリュームではありますが漫画だと思えば確かに敷居は低い

それに内容もしっかりしてるので面白いです

 

でも……あの漫画って人物の区別がつかないんですよ。例えば下の画像を見てください

 

しっかり見てくださいね

 

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この3人は全員別人ですからね

 

一応説明すると左から甘寧、魏延、麋竺

 

おそ松くん並みに区別がつかない。顔どころか着てるものまで似てますからね

 

こんなの間違い探しですよ

 

横山さんは人物の描き分けがあまり上手じゃないのです。その為、読者は混乱することがあります

とくに戦のシーンは沢山の武将が登場するので違いがわからないと致命的です。死んだと思ってた武将が再び現れて「??」となることたびたび

普通は顔が似ていれば鎧とか衣服で区別するのですが、鎧のパターンも似てることがありマジでわからないことがあります

 

心情を表情で表現するのも上手じゃないです。キャラの内面がわかりにくいことがあり、行動が突飛に感じることがありますね

 

恐らく結構な数の人が横山三国志で挫折を味わってると思う

 

名作なのは間違いないです。でも慣れが必要

 

そんなわけで、三国志をお手軽に知りたいなら青い鳥文庫の三国志をおすすめします

おしまい

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【富豪刑事】昔、推理クイズが好きだった人におすすめする連作短編小説:筒井康隆

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私が子供の頃に推理クイズ本というのが流行っていました

探偵やスパイ、警察官が登場する1、2ページの短いストーリー。最後がクイズ形式になっていて犯人を当てるというもの。一冊につき20~30問程度は載ってたと思う

 

内容は殺人事件の犯人を当てたり、容疑者の証言から嘘を見破る、不可解な現象の謎を解く。など色々とありました

 

簡単に言うと読者が探偵になりきって事件を解決するという構成です

正解は次のページに書いてあります

 

これが非常に面白くてですね、当時の私は夢中になって読んだものです。子供が想像力を鍛えるには最適な本だと思う

 

妄想がたくまし過ぎて私みたいなおっさんになる可能性もありますけど

 

調べてみたら今も推理クイズ本は出版されていますね。いくつか読んでみましたけど昔に比べて一問のボリュームが少ない。ストーリー色が薄まり、クイズ色が強くなっているようです。そのぶん問題の数は多い

 

【富豪刑事】は昔懐かしい推理クイズ本の雰囲気が漂う連作短編小説です

 

作風はコントっぽくて笑えます。エンターテイメント色が強め

書いているのは筒井康隆。個性的な登場人物ばかりでブラックジョークも健在です。でも他の作品に比べると控えめかな・・・

収録されている短編は4つ

  • 富豪刑事の囮
  • 密室の富豪刑事
  • 富豪刑事のスティング
  • ホテルの富豪刑事

 ゴージャスな大人の推理クイズ本って感じでしょうか

 

もちろん内容はちゃんとした短編推理小説ですよ。クイズ形式ではありません

でもストーリーの構成にどことなく昔の推理クイズ本の懐かしさが漂ってるんですよね

文章は非常に読みやすいので、読書が苦手な人でもとっつきやすいはず

 

作品は1975年から1977年にかけて『小説新潮』にて発表されていました。単行本化されたのは1978年

かなり古いな。私が生まれた年じゃん

とはいえ他の筒井作品がそうであるように、この作品は今でも十分に面白いです

 

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2005年にはテレビ朝日制作、深田恭子主演でドラマ化されています。視聴率は好調で翌年には続編が放送されていますね。私は見てません

 

ちなみにドラマでは深田恭子が主人公ですが、小説では神戸大助という青年が主人公です

 

簡単なあらすじ

刑事課捜査1係の刑事、神戸大助は大富豪である神戸喜久右衛門の1人息子

大助は礼儀正しいナイスガイですが、少しのんびりした性格で、振る舞いがブルジョワ過ぎるので、同僚からは呆れられたり苦々しく思われていました

 

若造のくせにキャデラックを乗り回して、いつも葉巻を吸ってますからね。私が同僚だったら粛清してやりますよ

 

そんな彼が4つの難事件に挑みます。といっても潤沢な財産を湯水のように使って犯人を炙り出すわけですが

 

ぶっちゃけ金の力で無双してるだけ

 

本格的な推理小説を期待した人は怒るかもしれません

 

筒井康隆が作中に登場して「本格推理なんて初めてだから許してちょ」と書いてます

 

許しましょう、面白いから

 

大助のお金の使い方は清清しいほどの大盤振る舞いです。もう完全にネタの域。こち亀に例えると中川君レベル

彼がどういう風に大金を使って事件を解決するのか、それも見どころの一つです

 

さきほど、私はこの作品が推理クイズ本に似ていると書きました

実はあの手の本の答えには非現実的なものが結構あって、私は小学生ながらに「それはねーよ」と突っ込みを入れるほどでした

理屈としては可能かも知れんけど現実には無理だよねって感じの答えが多かったのです

 

そういう荒唐無稽さも『富豪刑事』と似ていて、それが本作の魅力でもあります

 

つまり小難しいことは置いといて楽しければOKなわけです

そうは言っても私は推理物としても十分に楽しめましたけどね。あくまでコアな推理小説ファンはトリックに物足りなさを感じるだろうというだけ

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見どころ

登場人物はコミカルで楽しい人たちばかりです

例えば大助の父、神戸喜久右衛門は若い頃から悪逆非道の限りを尽くして財を成した人物。しかし今ではそれを激しく後悔していて、口癖のように「こんな汚れた財産はさっさと消えちまえ」と大助に散財を命じています

ところが元々商才がある上に優秀なスタッフに囲まれている喜久右衛門が無駄遣いをしようとするたび、お金が儲かってしまい、さらに財産が増えるという哀しいことになってしまいます

そのたびに喜久右衛門は癇癪を起してプンプン、「ぶっ殺してやる」とばかりに周囲の人間に当たり散らす

また喜久右衛門はテンションが上がると昔の非道な振舞をポロっと白状してしまうというお茶目な一面も、そのたびに息子や秘書に慌てて窘められちゃう

オマケに彼は興奮するとすぐに発作を起こして死にかける

喜久右衛門の一連の行動が本作では一種の様式美になっています

 

また、事件が解決するといきなり踊りながら登場する署長なんて意味不明な面白さがあります

署長は踊りながら刑事たちに「ご苦労さん」というだけの役どころです。それ以外に出番はありません

他にもおもちゃ箱をひっくり返したように沢山のキャラが登場して、ワチャワチャしてます

 

凄いのがこれだけ多数のキャラが登場するのに読んでいても混乱しないんですよ

 

脇役からメインキャラまで無駄にしっかりとキャラ付けされているおかげです。名前や性格がしっかりと定着してるので「誰だっけ?」と思うことがない

どのキャラもそれぞれを主人公にして小説が書けるほど濃いです。実際に筒井康隆は作中でそう語っています

 

筒井康隆本人がちょいちょい登場してますが、それもこの作品の特徴ですね

たまにキャラが読者に語りかけるシーンもあります、古畑任三郎みたいに

 

まさにコントみたいな作品です。でもしっかりエンターテイメントもしてるので先が気になってあっという間に読んでしまいますよ

まとめ

 筒井康隆の作品にしてはヤバめの毒は少ないです。でも相変わらず筒井康隆してる作品でもあります。荒唐無稽さも健在

私は凄く気に入ってるのですが、小説は続編が出てませんね

話によると筒井康隆はこの4編を執筆するのに2年近くかかったらしい

長くかかっても構わないので続編が読んでみたくなる一冊

本格推理小説ではないけど、上質な娯楽推理小説ですよ

おしまい

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【昭和歌謡大全集】オタクとおばちゃんたちの殺し合いを描いたコメディ小説:村上龍のおすすめ

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1994年に週刊プレイボーイで連載されていた小説。『連載開始と同時に物議を醸した』とウィキぺディアに載ってましたけど、たしかに内容は笑えるほど酷いです

 

2003年には松田龍平や安藤正信、樋口加南子らそうそうたる顔ぶれで映画化されています

 さらに蜷川幸雄が舞台化してたらしい。観たかったなあ

 

どんな話?

頭のおかしいオタクな若者が衝動的におばちゃんを殺害する事件が発生

首を裂かれたおばちゃん、ヤナギモトミドリは名前が同じミドリというだけで集まるグループ、『ミドリの会』のメンバーでした。仲間を惨殺されたことで他のメンバーは復讐を決意

オタクグループVSバツイチおばちゃんグループの血を血で洗う闘争劇がはじまります

最初は刃物を使っていましたが次第に扱う火力が増していき、最後は調布市が消滅します

 

は!? なにそれ

 

と突っ込みが入りそうですが、もちろんブラックコメディです

 

小競り合いが殺し合いに発展するとかじゃなく、いきなりオタクが面識のないおばちゃんをナイフで襲うというクレイジーさで殺し合いの火蓋が切っておとされます

 

真面目に読んではいけません。村上龍のノリまくった文章を楽しむ小説です

 

 

昭和歌謡大全集というタイトルが示す通り、随所に三波春夫やフランク長井といった昭和歌手の名曲が登場します

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各章は曲のタイトルになってますね

 

昭和歌謡をバックにしてどうしょうもない連中が無残な聖戦を繰りひろげます

 

変わったタイトルの小説になったが、私は本当に楽しんで原稿を書いた。これほど書くのが楽しかったのは『69』以来だと思う

 

あとがきに村上龍がこう書いている通り、楽しんで書いているのがありありとわかる作品です

『69』も楽しい小説でしたね。私の好きな小説です

村上龍の【69 sixty nine】初めてゲラゲラ笑った小説 - ダメラボ

 

しかし昭和歌謡大全集は内容があまりに不謹慎なので、「面白かったよ」と他人に勧めるのがちょっと難しい。洒落がわからない人に勧めたら本気で怒られそうです

 

見どころ

メインキャラは6人のオタクとミドリの会のおばちゃんたち

オタク青年たちは仲良しグループというわけではありません。ただなんとなくメンバーの一人のアパートに集まってるだけ。この時点で意味不明ですが、そうなんです

 

彼らはあまりに世間との接触を苦手にし過ぎたせいで思考や行動がヤベー奴のそれになってます

物語の序盤に彼らはジャンケンの練習をするんですけど

 

いいですか私は言い間違えてませんからね

 

彼らは何かを決めるために皆でジャンケンをする前にジャンケンの練習をするんですよ

それはこんな感じです

ヤノはじっと自分の手が作るグーとチョキとパーの形を見ている。特にチョキの形にこだわっているようで、人差し指と中指が作り出す角度を何回も修正してその都度何かつぶやいている。「仰角を作る二辺とまったく同じ長さの二等辺三角形に正対する場合の関数はユークリッドと非ユークリッドではまったく違うはずだから……」

スギオカは、右手と左手でジャンケンをして、右手と左手とどっちが本当のボクなんだろう、と誰かに話しかけているが誰も聞いていない。

 

ミドリの会のおばちゃんたちも違った意味で猛者ぞろいです

 

孤独とエネルギーを発散できずに鬱屈とした気持ちを抱えてるという点ではオタク青年たちと共通しています

 

ちなみに本作でおばさん扱いされてますがまだ三十代です。皆が一回以上は結婚に敗れています

一見まともに見えるのですが、友達を作る術を知らない孤独さが招いたのか、それぞれが自分の世界を持ち過ぎていて、皆で会話をしていても人の話をろくに聞いてません

 

そのため協力して何かをすることが極端に苦手だったりします

 

そんな彼女たちが仲間の死を切っかけにして武器の扱いを覚え、協力し、励まし合いながらゲリラの戦いを身につけていきます

ミドリの会の五人は三十数年生きてきて、初めて他人を発見した。殺人の方法を科学的に考えて決め、それを全員で認めた時、彼女達は手を取りあって泣き出してしまった。それは基本的にバンザイ突撃しか知らなかったこの国の婦人達にとって、革命的な一夜だった

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村上節が読んでて楽しい

普通の人では言語化できない些細な心象をくどいまでに描くのが村上節です。この人は文章がノッてくると改行なしで一つのセンテンスが異様に長くなります

今回の作品は本人が楽しんでいるので全編に渡って村上節が炸裂しています

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この表現法は読みにくいので苦手な人がいるかもしれませんね

 

たしかに文脈を真面目に読み取ろうとすると息継ぎなしで読むような感じになるので疲れるかも。そんな時は流し読みでも大丈夫。話の流れがわからなくなることはないので

 

脇役から通行人までキャラが濃すぎる

昭和歌謡大全集には本筋に関わらないキャラが複数登場します。代表的なキャラは、とあるメンバーの殺害現場に目撃者として現れる女子短大生です

そこには内臓の病気を取り出してその毒の成分だけでクローン人間を造った、という感じの女子大生が立っていた――

「そこで、立ち小便をしたら、だめよ」

 声そのものにも病気の粉末がまぶしてあるような感じだった

 

この女子短大生は常軌を逸した顔と声の持ち主、つまり不美人です。普段はクルクルパーのオタク青年たちが彼女と相対した時のみ、頭が正常に働くというすごいキャラとして描かれています

 

この娘の描写がとにかくひどいんですよ

 

ここに掲載するのが躊躇われるレベルです。この短大生と遭遇した時のオタク青年、ミドリの会のメンバー、周囲の一般人、みんなのリアクションがとにかく下品過ぎてヒドイ

 

でもその表現が秀逸すぎてつい笑ってしまう

 

他にもトカレフを密売する金物屋の親父が良い味出してます

最初に路上で殺されたヤナギモトミドリを助けもせずにガン無視する通行人たちもなかなかのカオスっぷりです

 

登場人物にまともな人が一人もいません。みんな無駄にキャラが濃く異彩を放ってます

 

言いかえるとそれだけ強いエネルギーを放つ作品です

まとめ

楽しい小説ですが、あくまでも創作物として楽しめる人限定です。特に最後は賛否両論あると思います

女性(特におばちゃん)に対する表現が笑えるほどお下劣で過激です。自分は爆笑しましたが、もし今発表したらそれこそ94年当時よりも物議を醸すでしょうね。そういう意味でも貴重な作品です

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SFライトノベル【タイム・リープ あしたはきのう】タイムトラベル物の傑作小説!:サスペンスとしてもおすすめ

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いつも外国のSF作品ばかり取り上げていたので国内作品を紹介

『タイム・リープ あしたはきのう』は1995年に発表されたライトノベルです

 

タイム・リープ。すなわち肉体はそのままで意識や記憶だけが時間移動するタイムトラベルを題材にしています

著者は高畑京一郎。タイムトラベル物として非常に評価の高い作品

アマゾンでも多くの人が高評価をつけています

1997年に同名で実写映画化されました。主演は佐藤藍子

 

懐かしい女優さんですね。彼女の映画初主演作品です

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どうでもいい話ですが、当時の私は彼女みたいに耳の大きな女性が好きでした

 

しかし映画はぱっとしません。せっかく大林宣彦が監修したのに……

私の感想もうーんって感じです。個人的には原作のほうが面白かったかな。というか原作の完成度が高すぎます

 

高畑京一郎ってどんな人?

私はこの小説を読むまで高畑京一郎という作家を知りませんでした

 

経歴を調べてみると

 

  • 1994年に第1回電撃ゲーム小説大賞(現在の電撃小説大賞)で金賞を受賞しデビュー。受賞作品は『クリス・クロノス 混沌の魔王』

 

  • 1995年、『タイム・リープ あしたはきのう』

 

  • 1999年、『ダブル・キャスト』

 

  • 2001年より『Hyper Hybrid Organization』シリーズを2005年まで発表してますね。こちらの作品は外伝を含めて6巻。まだ途中です

 

ライトノベル一本でやって来た作家さんのようです。作品を見る限りSF寄りの作家さんかな

とにかく筆の遅い作家としてファンの間では有名らしい。しかし作品の質は常に高く、発表した作品は外れがないため、熱心なファンが多い

 

文章はきっちりしてて隙がなく、いかにもSF作家っぽい文章です

しかしタイム・リープはお堅い作品じゃありません。読んでいても詰まるような難解な描写はなし

 

ザ、タイムトラベル青春物です。ライトノベルなので非常に読みやすい

 

この作家さんの凄い所は、目まぐるしく変化する展開とそれに絡む複雑な時間移動をびっくりするほどわかりやすく描いていることです

時間移動に伴う散らばった伏線がパズルのようにはまり込む瞬間が随所にあるのですが、それに気づくたび

 

おい、すげえなこの作家

 

ってなります

本当に頭の良い人なんでしょうね

 

それだけじゃなく時間移動を題材にした名作が必ず纏っている空気感

『夏への扉』や『時をかける少女』のようなノスタルジックさも感じさせてくれます

 

天才かよ

 

青春物ではありますが、主人公の女子高生に突如発現したタイムリープ能力の謎に迫る一週間を描いたサスペンス小説でもあります

緊迫感があり、終盤にかけて収束していくの疾走感はサスペンスの醍醐味です。怒涛の伏線回収に背筋が震えちゃいますよ

 

でも作品全体に漂うのはどこか懐かしく

 

甘―――い、青春臭ですよ。タイムリープ能力に戸惑う女子高生と彼女を助ける同級生のクール少年は腹が立つほど青春してますよ。なんだコイツらって感じですよ

 

どうせ最後は付き合っちゃうんだろ、ああん

 

などと、暗い青春を送っていた大人ならギリギリすること間違いなしの一品

 

冗談ですよ

 

あらすじ

 平凡な女子高生、鹿島翔香は朝起きて登校すると混乱してしまう

今日は月曜日のはずなのにクラスメートが火曜日だと言うのです

そんな馬鹿な、昨日は日曜日だから今日が火曜日な訳がない。困惑する翔香

しかし誰もが火曜日だと言い、教師は火曜日の授業を始めました。流石に翔香も火曜日だと認めざるをえませんでした

クラスメートは昨日(月曜日)の学校での翔香の様子を話してくれました

驚いたことに、翔香は普通に学校に来ていたらしい

クラスメートの語る翔香の行動は彼女の身に覚えがないものばかりでした

 

なぜ月曜日の記憶を失っているの? 

 

気味の悪さを押さえられない翔香。帰宅すると藁にもすがる思いで普段からつけていた日記を確認してみます。すると昨日の日付には

『あなたは今、混乱している。あなたの身になにが起こったのか、これからなにが起こるのか、それはまだ教えられない。若松くんを頼りなさい――』

と自分の筆跡で書かれたメッセージが。もちろん自分が書いた記憶はありません

 

なぜ若松君?

 

若松和彦は校内でもトップクラスの秀才。翔香のクラスメートですがほとんど話したことはありませんでした

水曜日。訳がわからないまま翔香は和彦に相談します。しかしクールな和彦は「何を言ってるんだ」と呆れるばかりでちっとも取り合ってくれません

冷たい和彦の態度に憤慨する翔香でしたが、彼女は不意に不思議な現象に襲われ、気づくと世界は木曜日になっていました

混乱する翔香は再び和彦に会います。すると和彦は何故か事情を察してるようで意外な言葉を翔香に発するのでした――

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見どころ

物語は翔香の火曜日から始まり、彼女が未来や過去にタイム・リープすることで進んでいきます。行き来するのは一週間という小さい範囲です。舞台はほとんどが学校とその周囲だけ

 

つまりタイムトラベル物ではありますが、いわゆるセカイ系の物語ではありません

セカイ系とは主人公たちの小さな物語が世界全体に大きな影響を及ぼすのようなストーリーです

アニメだと『サマーウォーズ』とか『涼宮ハルヒの憂鬱』とかになるのかな

これらの物語は一都市に住む主人公たちの行動が世界の命運を握るような大きな話になっちゃいますよね。本作はそういう話じゃないです

 

あくまで主人公とその周辺だけで物語は完結します

 

描かれる世界が小さいからこそ、ストーリーは非常に濃密に構成が練られています

まず、タイムトラベル物にありがちなタイムパラドクスを極限まで削れていることです。徹底して矛盾がないようにタイム・リープの設定を作っています

タイムトラベル物って読んでると、ん? ってなる時ありますよね。矛盾が引っかかって物語に没頭できなくなるの。この作品にはそれがありません

 

全部説明するとネタバレになるので一部だけ

この作品におけるタイム・リープは同じ時間帯には戻れません

翔香は一度経験した時間帯に再びタイム・リープすることはできないようになっています。この設定がタイムパラドクスのリスクを減らし、物語を面白く転がします

 

他にもおもしろい設定があるのですが、それは作品を読んで確かめてください

 

SF好きの間では本作がタイムトラベル物の小説でもっとも優れているという人もいるほどです

 

すごいよこの作家さん。構成力がお化けです

 

 

翔香はとある感情が起こることでタイム・リープしてしまいます。そうなってしまった理由はとある出来事が原因なのですが

 

すみませんね、『とある』ばっかで

 

説明が難しいな、ここを説明するとオチがバレちゃうのですよ

 

とにかく伏線の張り方がすごいのよ、オラびっくらこいた

 

翔香と和彦の関係

最初は仲良くないです

タイム・リープする条件が翔香のとある感情に関わるため、それが和彦と翔香の信頼関係を築くきっかけになり、2人の距離が縮んでいくことに

一週間という極めて短い時間の話ですが、お互いが急接近することに違和感はありません

 

さっきも話しましたけど、のんびりしたストーリーじゃありません。次第に主人公の身に危険がせまります

そこを若松少年が華麗に謎を解いて翔香を助けるのですが

 

完璧超人すぎてちょっとムカつきます

 

でも彼は良い奴です。スカした男ですが

 

まとめ

読みやすくダレた展開がないのであっという間に読み終えますよ

 

この作品はライトノベルというジャンルですが。本格SFと言っても差し支えないと思います

それほど高畑京一郎の構成力、発想力、文章、どれも素晴らしいです

 

まず一度何も考えずに読んで、次に読むときはオチを理解した上で読むと、作品の凄さがよりわかると思います

 

凄い作家さんなのですが寡作すぎて名前があまり売れてないようですね

良い機会なので他の作品も読んでみようと思います

おしまい

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【夏への扉】SF初心者におすすめするジュブナイルSF小説:ロバート・A・ハイライン

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アメリカのSF作家であるロバート・A・ハイラインはアーサー・C・クラークやアイザック・アシモフと並んでSF界を代表する作家の1人です。

夏への扉以外にも『宇宙の戦士』『月は無慈悲な夜の女王』など数多くの名作を発表し、今でも世界中で読まれています

名作です。 評論家の評価は低いけど、ロバート・A・ハイラインの代表作

今回おすすめするのは【夏への扉】です

冷凍睡眠とタイムマシンが登場する

 

時を駆けるおっさんの物語

 

実はこの作品は本国アメリカよりも日本で人気の高い作品だったりします

SFファンの間では評価が分かれる作品でもありますね

 

ネットやブログで自分の好きなSF小説トップ10に夏への扉をランクインして発表すると

 

顔真っ赤にしてディスってくる人が高確率で現れますよ。ムキーって

 

「夏への扉が名作だと! このニワカが!」

「ストーリーが行き当たりばったりで緊張感に欠けるんだよ!」

 

って感じで

 

そんな夏への扉ですが

 

私は好きですね。面白いですよ。作者がエンターテイメントに徹しているのを強く感じます。ロマンチックな話ですが甘ったるくもないし

 

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物語の最初の舞台は1970年のアメリカです。史実と違ってマンハッタンやニューメキシコの都市が核で吹き飛んでいます。とはいっても世紀末的な悲壮感はありません

この作品が発表されたのが1956年。なので1970年のアメリカは未来設定が盛り込まれてちょっと不思議な世界観で描かれています

 

評価の分かれる作品と言われてますが、アマゾンの評価は軒並み高いです

 

物語に癖はありません。親友と恋人に裏切られた主人公が頑張る話です

サスペンス要素や緊迫したシーンもありますが、ゆったりとした空気に包まれているので読んでいても嫌な気分になりませんね

読後感も良い。中高生でも安心して読めますよ

 

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同じ作者が書いた『宇宙の戦士』みたいな社会批判や皮肉、政治思想を語る描写もありません

 

あれはあれで楽しいですけど、苦手な人はいると思う

 

もし『宇宙の戦士』を先に読んでハイラインに苦手意識を持ってる人がいたら、夏への扉にトライしてみてください

 

作風がガラっと変わってて驚くと思う

 

SF小説に興味はあるけど、なんか難しそう

そんな風に二の足踏んでる人に是非読んで欲しい作品です

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あらすじ

1970年。親友と恋人に裏切られ大事な発明品を奪い取られた発明家のダン。彼はオーナーでもあった自分の会社も追い出されてしまいました

ダンは酒浸りの毎日を過ごし、今日も飼い猫のピートと一緒にバーにいました

 

もううんざりだ……

 

人間不信になっていた彼は『ミュチュアル冷凍睡眠保険』の広告を見て名案を思いつきます

 

そうだ!自分を踏みにじった連中のことなんて寝て忘れてしまおう。きっと寝ている間に未来はもっとましな世界になってるはずだ。悪い世界になってたとしても今よりはマシな気分になれる

 

未来で目覚めた時、美しい元恋人が醜く老いている姿を見れば、やり場のないこの怒りが少しは晴れるかもしれない

 

ダンはピートと共に冷凍睡眠に申し込みました。行き先は30年後の2000年

 

しかし事は順調に進みませんでした

 

2人?は元恋人の凶行により離れ離れになってしまう。ダンだけが薬で眠らされ冷凍睡眠で未来へと送られてしまったのです

 

2000年に目覚めたダンはピートがいないことに絶望し怒り狂います。さらに不運なことに信託していた財産を保険会社の倒産により全て失っていました

 

ダンは生活のために仕事を探し、未来世界で生きていくことを決めます

先進的な未来のロサンジェルスに戸惑うダンでしたが、どうにかスクラップ工場で働き口を見つける

 

悔しいことに30年前に奪われた発明品を扱う会社は巨大な一流企業となってました

 

ある日、彼は発明品の特許にまつわる不審な記録に気づき、調査を開始する

 

ちょっとロリコン気味のおっさんが30年の時を駆けて見つけた真実とは……?

 

見どころ

物語の骨子は奪い取られた発明品の謎や消えたヒロインを探すために奮闘するダンの姿です

ヒロインはダンを裏切った親友の義理の娘、リッキイ11歳

 

この年齢設定のため主人公をロリコンだと叩く人もいます。ちなみにダンは30歳です

 

実際は時間の行き来があるのでヒロインは21歳として落ち着くのですが、11歳の少女に結婚しようと言われて感動する主人公のシーンはたしかにちょっとキモいかも

 

しかしまあそんな事は些末なことです

 

ストーリーは先が気になるように上手く構成されてます。テンポも良い。タイムトラベル物の定番である仕掛けが随所に見られます

 

よく考えたら60年以上前の小説なんですよね。でも古さは感じませんね

 

なにより凄いのが作中に登場するダンの発明品、万能フランク(家事ロボット)には動作を記憶させる概念として外部記憶媒体のようなパーツが使われていたり、製図機ダンという機械はCADシステムに似ていることです

 

60年以上も前に著者であるハイラインは未来を見通すようにこれらの機械を描写してました。機械の機能や製作工程にはリアリティがあります

 

まさにSF作家ですね

 

あとですねダンはめっちゃ猫好きです。私は猫の生態に詳しくないけど、猫LOVE な様子がヒシヒシと文章から伝わってきます

 

ストーリーも良いけど、私がもっとも気に入ってるのは

 

作品全体を覆うノスタルジックな空気。セピア色のどこか懐かしくて、昔話を思い出すような語り口

 

緊迫した展開でもこの空気感が不思議な緩衝材になってくれます

それが故に緊張感のない作品と言われたりもしますが

 

なんか好きです。この雰囲気

 

まとめ

SF小説としてはその空気感が非常に独特な作品です。もちろん悪い意味じゃない

これを味わうだけでも十分に価値のある作品だと思います

評論家には受けが悪いですが素敵なストーリーですよ

私はこの作品を読み終わって

 

これは俺がずっと持っておくべき小説だ

 

っと思いましたね。そんな小説

一度読んでみてください。SF小説の印象が変わりますよ

おしまい

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【旅のラゴス】架空の世界を旅する色男の話。傑作SF作品:おすすめ小説

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大好きな小説です。著者は筒井康隆

でもこの小説は筒井作品っぽくないですね。シュールやナンセンスな表現はないし、ブラックな笑いやパロディもありません。オラついてもなければ、かといって『時をかける少女』のようなジュブナイルとも違う

 

【旅のラゴス】は架空の世界を舞台にした青年ラゴスの40年に及ぶ旅の記録です

 

SF小説とも言えるしファンタジー小説とも言える

 

文庫本にして260ページ程度のボリュームしかなく、3時間もあれば読み終えることができます

それにもかかわらず読み終わった後に途轍もなく長い間、物語に没頭してしまったかのように錯覚してしまう

本を閉じた後に感じる余韻はまるで自分まで長い旅をしてきたかと思うほど

 

なにを大げさな

 

って思うかもしれません。でも読めばわかります、マジっす

 

本当に不思議な小説なんですよ

うーん、なんて言えばいいのか

 

……

 

なんとも言葉が思いつかんです

 

ラゴスの旅は順調ではありません。山あり谷ありの起伏に富んでいるのに筒井康隆の文体は淡々として静か。でも決して無味乾燥ってわけじゃない

 

聞いた事もない不思議な動物が登場するし、この世界で生きる人々の生活には超能力が溶け込んでる

しかしそんな時代背景や文化習慣の説明を簡素な表現にとどめているので、それがかえって読み手の想像力を刺激し、濃密な世界観として頭の中に広がります

 

囚われて長い年月を奴隷として過ごしたり、ある国で王様になったり、ラゴスの境遇は目まぐるしく変わります

時間は確実に過ぎ、ラゴスは青年から壮年へと年をとっていく

 

それでもラゴスは旅を続ける。名誉を得てよぼよぼになっても彼を突き動かすのは旅への衝動、知への飽くなき渇望、愛する女への執着

 

旅の目的地は決まっているのに、辿り着けばそこが中継地でしかないことに気づいてしまい、また旅を続ける

 

ラゴスは困難に襲われることもあります。出会いや別れ、死別もある。でも著者はその部分をことさら強調したりはしない。あくまで静かにラゴスの旅を見守ることに徹してます

 

「旅の目的はなんであってもよかったのかもしれない。たとえ死であってもだ。人生と同じようにね」

 

初めてこの小説を読んだ時

 

どえらい本を見つけてしまった

 

と、猛烈に感動しました

 

自分がリュックを背負って海外へ飛び出したのは間違いなくこの小説の影響です

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簡単なあらすじ

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北の都市から南の大陸を目指して旅を続けるラゴス。彼の目的はこの世界へ最初にやって来たと伝えられる人類の先祖の痕跡を訪ねること

すでに高度な文明が絶えて数千年の月日が過ぎ、人類は電気も知らない世界へと逆戻りしていました

その代わりに獲得したのが超能力です。空間転移、読心術、予知夢、壁抜けといった能力が人々に目覚め生活に根づきはじめます

ラゴスはひたすら南を目指す。立ち寄った町で様々な出会いと別れを繰り返し、時には鉱山奴隷として7年を過ごすことになっても、淡々と南の大陸を目指すのでした

そして目的を果たしたかと思えば今度は来た道を引き返すように北を目指します。再び長い旅が始まるのです

ラゴスの生涯をかけた旅に終わりは来るのでしょうか

見どころ

 

とにかく読んでください

 

この小説は多くの本好きがお薦めする小説です。書評ブログには必ずといっていいほど取り上げられています。なので記事にしてもSEO的にまったく美味しくありません

それでもお薦め記事を書きたくなる小説なんですよ

昔、スタジオジブリがアニメ化するという噂が流れましたが、たしかに宮崎駿がアニメ化しそうな作品でもあります

 

超能力やSFチックな設定から独特な世界観を想像するかもしれませんが、いや確かに美しく不思議な世界観ですが

 

設定はオマケみたいなものだと思ってください

 

テーマはズバリです

 

タイトルが『ラゴスの旅』でなく『旅のラゴス』としたのも頷けます

 

本作はラゴスの旅エピソードを纏めた連作小説という形をとっています

 

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死や別離といった出来事が特別なイベントではない世界で、良い奴も悪い奴も平等に描かれる。原初の風景を闊歩するスカシウマやミドリウシ。不思議な生態を持つ鳥を受け入れて卵の道を作る住人たち、卵が食べられなくて哀しみに暮れる龍(大蛇)

 

ファンタジー世界でありながら、そこに生きる人々は実に泥臭く、時に悪辣であったりする

 

すごいや筒井康隆、やっぱりアンタは天才だ

 

どんな小説なの? と聞かれても

 

 

としか答えようのない小説

 

こんな人は読んでもつまらないと感じるかも

  • 自分の中に確固とした倫理観があって、フィクションを読んでてもそれを手放せない人
  • 本を読む時に答えがないと気が済まない人

簡単に言えば

 

郷に入っては郷に従え

 

ができない人には向きません

 

まさに旅と同じです

 

ラゴスは聡明ではありますが俗っぽくもあります。女ったらしで自分勝手だと思う人もいるでしょう。そこに腹を立てる人は物語を楽しめないと思う

書評を見るとそういう部分を叩いてる人がいましたね。作品の本質的な部分ではないのですが……

結末をちょっとだけばらすと、ラゴスの旅は続きます。ゴールは示唆されていますが描かれてはいません。恐らくですがゴールに到達したとしてもラゴスは再び旅を続けるでしょう

 

つまり結末はあってないようなものなのです

 

何をもって旅とするかは人それぞれ。だから明確な答えもない。読み終わって欲求不満を感じる人もいると思います

 

しかこの作品は常にメッセージを読者へ投げかけています

 

『旅とは?』

まとめ

 しつこいですが

 

とりあえず読んでみてください

 

以上おわり!

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山際淳司の【スローカーブを、もう一球】何かに行き詰まったら読んで欲しい小説:おすすめ青春小説

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山際淳司。ノンフィクション作家。1995年に47歳の若さで亡くなっています

 

山際淳司を一躍有名にしたのは『江夏の21球』という短編ドキュメントです。発表されたのは1980年。

どんな内容かというと

 

1979年、近鉄対広島の日本シリーズ第7戦
4-3で広島がリードのまま迎えた9回裏の近鉄の攻撃。1アウト満塁の場面で江夏が投げた21球、それだけにスポットをあてた作品です

 

本当にそこだけ

 

著者は江夏やバッターの石渡、広島の古葉監督ら関係者に取材し、当時の様子を様々な視点を交えて書き上げました

 

この作品がスポーツ雑誌『ナンバー』の創刊号に掲載されると、その乾いた文体と冷静な切り口がベテランの野球解説者をも唸らせ、読者を魅了し大反響を呼びます

 

この作品を出世作として山際淳司はトップライターとして知れ渡ります

うろ覚えですがテレビにも結構でてた気がする

 

その後、江夏の21球はプロ野球史に残る名勝負として何度もドキュメンタリー番組が作られることになりました

何年経ってもしつこくテレビで流されたので、私まであの試合を見たと錯覚してしまうほど。ちなみに当時の私は2歳です

そのあとからです、スポーツで名勝負を演出する時にテレビが『○○の8球』とか使い始めたのは

 

おっと話が逸れた。戻さないと

【スローカーブを、もう一球】はスポーツノンフィクションの傑作と言われてます

本作には山際淳司が1980年~1981年に執筆した短編が収録されています

もちろん『江夏の21球』も入ってます

 

エピソードは8編

 

登場するのは高校野球やボート、スカッシュといった様々な競技のアスリートたち。江夏を除けば無名に近い人ばかりです

 

収録作は

  • 八月のカクテル光線    
  • 江夏の21球          
  • たった一人のオリンピック 
  • 背番号94           
  • ザ・シティ・ボクサー   
  • ジムナジウムのスーパーマン
  • スローカーブを、もう一球 
  • ポール・ヴォルター    

 

本作には他のスポーツノンフィクションと明らかに違う点があります

それは著者の選手を捉える眼差しが非常に淡々としている所です

 

スポーツ系のノンフィクション作品を読んだことがある人ならわかると思いますが、クローズアップされた選手の熱さや葛藤が濃く描かれた作品が多いです

弛まぬ努力や挫折からの復活、壊れたチームワークを再生していく様子、そういった逸話がドラマチックに語られる

 

感動の逸話を読めば心が揺さぶられるし、読み手がスポーツでもしてるならモチベーションの上昇に繋がる。ビジネスマンが読んでも良い効果があると思う

 

 しかし『スローカーブを、もう一球』にはそれがない

 

トーンの低い文体は決して感情を交えない。熱い展開になりそうなシーンは描かれているのに、筆者の語りはあっさりしてる

 

作中で取り上げられた選手は一部を除けば日の当たらない人がほとんどです。しかもそんな選手に限ってあまりひたむきでなかったりする

 

でもそういう人間のエピソードの方が面白くて印象に残ってしまう

人間臭いんですよね。理屈じゃ割り切れないプライドや葛藤を山際淳司は冷静に私見を加えずに描いてる

読み手を誘導するような書き方はしてません。選手のセリフをどう捉えるのかは読者次第

 

抑揚のない文章であるがゆえに選手の人間性が鮮やかに描かれています

 

誇張無しに描かれたアスリートの偽らざる本音は読者によってはイライラするかもしれない。あらゆる欲望を跳ね除け、己に打ち克つヒーロー像を望む人には消化不良と写るアスリートもいます

 

だがそれがいいんです

 

スポ根とは対極に位置するスポーツノンフィクション小説です

読み終わっても

 

うおおおおお!! 俺はやるぜ! 俺はやるッッ!

 

とはならないけど、

 

もうちょっと頑張ってみるか

 

って気分になる

 

誰もが物語の主人公みたいに前ばかりを向いて生きていけるわけじゃない。それはアスリートだって同じ事。そんな当たり前の事実を知ることができる

 

元気は出ないけど、少しだけ視野が明るくなる

 

そんな作品

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今回は1つだけエピソードを紹介します

このエピソードが作品全体の空気を表してると思います。参考になれば。
ネタバレが少しあるので気になる人は読まないでください

 

たった一人のオリンピック

 

日常的に、あまりに日常的に日々を生きすぎてしまうなかで、ぼくらはおどろくほど丸くなり、うすっぺらくなっている。使い古しの石鹸のようになって、そのことにおぞましいまでの恐ろしさにふと気づき、地球の自転を止めるようにして自らの人生を逆回転させてみようと思うのはナンセンスなのだろうか

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昭和50年、1人の大学生がいました。名前は津田真男。有数の進学校である筑波大付属を卒業した彼は東大を目指して2浪し、3回目の受験も失敗します

結局東海大学に入学することになった津田は挫折に押し流されるようにマージャンに明け暮れ無為な日々を過ごす普通の大学生になっていました

ところが大学2年も終わる頃、留年するかもしれないことに気づきます。年はすでに23歳。

高校のクラスメートはほとんどが東大へ行きすでに卒業している。なのに自分は東海大で留年する

 

そこでふと彼は思いつきます

 

オリンピックに出よう

 

それが実現すれば沈んだ気持ちも少しは晴れるかもしれない

突拍子もない思いつきですが彼は真剣でした

出遅れた人生はオリンピックに出場することで帳尻を合わせる

 

津田は高校までサッカー部に所属してましたが現在は何もやってません

それでも彼は本気でオリンピックを目指すことにします

目標は1年半後に迫るモントリオール・オリンピック

もちろんメジャースポーツで出場できないことはわかってます。だから彼は比較的ライバルが少なく日本代表になりやすいボート競技でオリンピック出場を目指すことにします。集団競技が嫌いなのでシングルスカルです

 

 簡単なことじゃない。でも津田には執念があった

 

頭の良い津田は目標から逆算して自分がすべきことをきっちり計画して実行していく

並外れた集中力と恵まれた体格を生かした猛練習の末、なんと津田は国内の大会で好成績を収めてしまう

 

しかし日本代表まであと一歩と迫りますが惜しくも代表には選ばれませんでした

 

彼はそれでも諦めません。次のモスクワ・オリンピックを目指すことにします。このまま練習を積めば四年後には日本代表になれるという確信があったから

 

大学を卒業した津田はアルバイトと猛練習の日々に明け暮れます。日本のトップにいるとはいえ所詮マイナー競技。収入は少なく常に生活はカツカツ、練習時間を確保するためにはアルバイトを増やすわけにもいきません

しかし津田はめげなかった

 

全てはオリンピックに出場するため

 

そして二十代後半になった彼は国内で無敵の強さを誇り、とうとう日本代表としてモスクワ・オリンピックの出場権を手に入れるのでした

 

しかし……

 

この話のオチは年配の方ならご存知でしょう

 

モスクワ・オリンピックはソ連のアフガニスタン侵攻に反発した米国に歩調を合わせる形で日本もボイコットします

つまり津田のオリンピック出場は夢と消えるのです

 

その後、津田はボートをやめて普通のサラリーマンになります

物語はそこであっさりと終わります

 

悲しい話でしょうか? 

 

私はそうは思いませんでした。恐らく山際淳司もそういうつもりで書いたんじゃないと思う

 

オリンピック出場というどこか浮世めいた計画を論理的に実行していく津田。ボート競技を語る彼はどこか冷めた風に見えました

でも彼の根底にあるのは今までの人生を一発逆転したいという極めて人間臭い渇望なんですよね

冷静でありながらオリンピックを目指す

そのアンバランスさというか歪さがあるので彼の言動には違和感を覚えてしまう

 

しかしそれは当たり前なんです。どんなに賢くても人間だから

見栄もあれば理屈で割り切れないプライドだってある

 

山際淳司の眼差しは津田の全てをあるがままに描いた。ただそれだけ。モスクワに行こうが行くまいが津田の人生は続く。当たり前のことを当たり前に描いた

この姿勢は他のエピソードでも変わりません

まとめ

今回は1つだけ紹介させてもらいました。他のエピソードも胸に残るものばかりです

でも読後感は決して悪くない。

 

どんな形でも人生は続いていく

 

当たり前のことなんですけど、成功や失敗ばかりが強調される昨今ではつい見落としがちになってしまう事実

 

なんとなく行き詰りを感じてる人は読んでみてください

ちょっとだけ曇った視界が晴れるかもしれません

おしまい

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【ほら男爵 現代の冒険】笑える短編小説と言えば定番かな。でもおすすめッス:星新一

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星新一。言わずと知れたショートショートの神様。あるいはSF作家の皮を被った神様

子供向けの作品から大人向けまで幅広いジャンルで活躍した天才作家です

 

生涯で1000編以上の作品を作ったと言われています

 

『ボッコちゃん』『気まぐれロボット』『エヌ氏の遊園地』『妄想銀行』等、代表作があり過ぎて紹介するのが困るほど

沢山の本を世に送り出しました。私の本棚にも30冊くらいはあったと思う

そんなわけで誰もが一度は目にしたことがあるのではないでしょうか

 

私が小学生の頃は、宇宙人がタイムカプセルを埋める話を国語の教科書で扱っていましたけど、今はどうなんでしょうかね

ん、よく考えたら教科書って地域によって違うんでしたっけ? まあいいや

 

『ほら男爵 現代の冒険』は私が読んだ星作品の中ではトップクラスに面白い作品です 

 【ほら男爵 現代の冒険】の簡単なあらすじ

主人公はヒエロニムス・フォン・ミュンヒハウゼン男爵の直系子孫であるシュテルン・フォン・ミュンヒハウゼン男爵です。長すぎるので男爵にします。

ちなみにご先祖のミュンヒハウゼン男爵はドイツに実在した貴族。別名『ほらふき男爵』として有名な人物です。とても面白い逸話を持った人物ですが紹介はまた別の機会に

 

収録されているのは4編

  • サハリの旅
  • 海へ
  • 地下旅行
  • 砂漠の放浪

 非常にわかりやすいタイトル。32歳の独身貴族である男爵がこれらの場所で大冒険するお話

 

サハラの旅

ナイスバディのモデルに豹の毛皮とワニ皮のバックをねだられた男爵。その辺で買うよりもサハラで自分が直接材料を調達した方が安くつくと現地へ飛びます。

現地では案内係ウンボコを雇い、モデルと供に意気揚々とサハラの奥へ進む男爵。しかし現れるのはヘンテコな動物や人間ばかり。しまいにはナチスの……

 

海へ

海賊船を新造した男爵。海賊コスプレをして男のロマンばりばりで海へと繰り出します。肩には「さようでございます、船長」としか言わないオウムを乗せて

ところが海にいるのはロマンの欠片もない人々。男爵はうんざりしてしまう。他にも人魚や桃太郎、ノアの友人と妙なキャラが登場しては悩みを打ち明けるのですが……

 

地下旅行

ハンモックで昼寝をしていた男爵はセクシーなウサギが走っているのを見かけます

「急げや急げ、遅れちゃ大変……」

まるでおとぎ話のようなウサギに興味を引かれて追いかける男爵でしたが地下で宇宙人と出会ってしまいます。

男爵は宇宙人に誘われるままに地下から様々な人間模様を観察するハメに。その結果、地球の思わぬ裏事情を知ってしまうのでした

 

砂漠の放浪

早とちりで飛行機から脱出した男爵は砂漠のど真ん中で遭難してしまう。一緒に脱出したのは占い師の女の子。2人は助けを求めて砂漠をさまよいます。ところが出会うのは一癖も二癖もある妙な人物ばかり。誰もが事情を抱えている様子で2人に構ってくれません

おまけに砂漠に設置されているのは変な機械やアイテムばかり。2人はうんざりしながら放浪を続けることなって……

 

 本作の魅力、面白いポイント

星新一といえばショートショートが有名ですが、今回紹介する作品は短編小説です

どういうこと? ショートショートと短編に違いがあるの? って人に説明すると

 

ショートショートは超短い物語

短編はちょっと短い物語

 

です

 

すんません、こんな説明しかできなくて。調べてみましたが定義は特に決まってませんでした

歴史としては1920年頃にアメリカで短編よりもさらに短い小説として広まった形式らしい

 

本作はショートショートよりも長い話。なので定番のショートショートとは違いがあります。

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男爵やヒロインにキャラクター性が乗っている

星新一ショートショートの特徴としてキャラクターの記号化というものがあります。つまり登場する人物には名前が与えられてないことが多い。舞台となる地名や細かい道具等の固有名詞も出てこない

登場人物はさりげなく毒を吐きますが個性は極力排除されてる

なので人によっては素っ気なく感じてしまうかもしれません

 

これには理由があって星新一は作品を書くにあたり、地域、社会環境、時代に関係なく読めるように意識していたから。なので作中では時事風俗ネタも扱わなかった

 

とウィキ先生が言ってました

 

しかし『ほら男爵 現代の冒険』では登場人物がワチャワチャしてます。コミカルでとても可愛らしい。ショートショートも好きだけど私はこっちの方が好きかな

キャラ性が増した分だけブラックジョークや毒もエンジン全開です

もちろん星新一作品らしく、さりげなく表現されてはいますが、それにしてもギリギリアウトっぽいネタが満載

KKK団の思想に賛同した黒人とかナチの刺青をしたユダヤ人とか

 

 さらっと登場します。そして皆が男爵に悩みを訴える

 

こういうコーエン兄弟的なジョークはつい吹き出してしまう。たぶん星さんはこの手のネタが好きだと思います

 

他にも危ないキャラが出てきますが、それは読んでのお楽しみ

 

リーラは、バストと頭脳とは反比例するという公式のとおり、あまり理性的ではないがきわめて魅力的な声で言う。

「あたし、ヒョウの毛皮で作ったコートが欲しいの。それとね、ワニ皮の大きなハンドバックが……」

 

こういう表現も今は使うと怒られるのかな。ちなみにリーラはオッパイが小さくなると頭脳明晰に変身します

 

星テイストの優しい語り口はそのままに、ストーリーは毒満載。なのに読み終わると大冒険が終わってしまった寂寞感にちょっぴりセンチな気分になってしまう

ショートショートでは味わえない魅力だと思います

 

爆笑というよりも、フフフっと思わず吹き出すような笑いのある小説

ショートショートではない星新一の魅力をぜひ味わってみてください

 

まとめ

星新一作品には少ないですが長編もあります。私が読んだのは『きまぐれ指数』『悪魔の標的』『人民は弱し 官史は強し』『明治・父・アメリカ』

最初に挙げた2作品はフィクションです。残りは星製薬の創業者である父親について書いたノンフィクション。短い期間ですが星新一は社長を務めていました

気まぐれ指数は個人的にはいまいちかな。でも残りはどれも面白いので興味のある方は読んでみてください

おわり

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 他にも読書感想を書いているのでよかったら読んでね

【クライム・マシン】ハズレなしの傑作短編推理小説。おすすめッス:ジャック・リッチー

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外国小説って小脇に抱えて歩いてると意識高そうでカッコ良いですよね。モテるから是非やってみてください

 

もちろん嘘です

 

大学生の時、ガルシア・マルケスの『百年の孤独』をこれ見よがしに抱えていましたけど、ちっともモテませんでしたよ

私の問題じゃなくて本のチョイスが悪かったんだと思います、絶対に

 

でも百年の孤独ってタイトル。これカッコ良すぎませんか

 

このタイトルから想像できるのは

 

「くっ、ここには俺を殺せる奴はいないのか……」

 

ボロボロのマントを羽織って不死身の身体を呪いながら死に場所を求めてるようなキャラ

魔法でいうと無属性? 

 

私はそんなイメージでキャンパスを徘徊していたのですが……

 

 

うん、恥ずかしくて死ねるな

 

どうして今まで生きてこれたんだろう

 

あ゛ああ、奇声をあげて白目のまま壁にダイブしたくなってきた

声の限りに「あっぺけぺー」とか叫べたら最高なんじゃないかな

 

ぽぉう

 

ちなみに本の内容は読んでないので知りません

本題からすこぶる離れてしまいました。ちょっと軌道修正

クライム・マシンは 短編ミステリーの魅力を完璧に体現した傑作

今回紹介するのはジャック・リッチーによる短編推理小説『クライム・マシン』

普段本は読まないし長文を読むのが苦手、でも小説をちょっと読んでみたい! って人には特におすすめ

 

短編推理小説の良さは長い集中力を必要とせず、様々な視点の物語を楽しめることです

トリックを明かされた時の爽快感は、長編物よりも短編の方が上かなと個人的には思ってます

 

なぜそう思うのかというと

 

短編推理の名手と言われる作家は言葉の削り方が上手く、少ない言葉で読者の想像を喚起させるような言葉選びに優れています

長編物に比べると情緒に劣りますが、その分だけ読み手に与える情報がクリアでわかりやすい

 

 ごまかしが効かないと言い換えることもできます

 

厳しい条件下で優れたトリックを披露されると、衝撃の鋭さを長編よりも強く感じてしまうんですよね

 

私が子供の頃は推理クイズの本が流行っていました

1、2ページの短い物語の後に、誰が犯人なのか、あるいは犯人がどういうトリックを使ったのかを読者は見破らなくてはいけません。ページをめくると答えが書いてあるという構成です

 

私はそういう本で推理の面白さを知り、推理小説にはまりました。

 

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『クライム・マシン』には奇想天外なトリックから叙述トリックまでなんでも詰まっています。収められているのは17の短編。僅か6ページで終わる話もある。バラエティ豊かな作品が詰まったおもちゃ箱みたいな作品集です

 

文体はシンプルで情景描写は簡潔、語り口は軽い。誤解がないように言っておきますが文章はめちゃめちゃ上手いです。無駄がなく、でも決して淡泊じゃない

オチはひねりがきいてます。登場人物は癖があり洒落っ気がある。どの短編も読者を楽しませようというエンターテイメントへのこだわりを強く感じます

 

上質な推理クイズのように楽しめますよ

 

実はこの本、ジャック・リッチーの短編から選りすぐりのものを集めて日本向けに刊行されたものです。つまり外れがありません。まさに傑作選

 

収録作の『エミリーがいない』はエドガー賞を受賞しています。

エドガー賞とはアメリカで最も権威あるミステリー作品に贈られる賞です。少し前には東野圭吾さんがノミネートされて話題になりましたね

 

この傑作選は宝島社が開催する「このミステリーがすごい!」ランキング海外編で第1位になっています

 

私は「このミステリーがすごい!」でジャック・リッチーという作家を知りました

 

日本ではあまり馴染みのない作家ですが、あとがきによるとアメリカ本国では短編の名手として専門家の間で評価の高い作家だったようです

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 いくつかの短編を簡単に紹介します

  • クライム・マシン

殺し屋リーヴズの前に現れた自称発明家の男は言った

「この間、あなたが人を殺した時、わたし現場にいたんですよ」

タイムマシンに乗って過去に行ったという男を鼻で笑うリーヴズ。しかし男の話はあまりに的確すぎて、リーヴズは次第にタイムマシンの存在を確信し始める

 

  •  エミリーがいない

消えたはずの妻の気配に悩むアルバート。周囲の人々はアルバートが妻を殺したのではと疑っているが……

 

  • カーデュラ探偵社

営業時間は夜の8時から朝4時まで、昼間は絶対に活動しない探偵、カーデュラ。ある日、彼は女性から資産家の護衛を頼まれる。さっそく資産家の屋敷に向かったカーデュラだったが、そこには奇妙な人々ばかりがいて……

 

  • デヴローの怪物

イギリスの旧家に伝わる怪物が復活した? 怪物騒ぎは殺人事件にまで発展し、旧家の当主がとった行動とは……

 

 まとめ

ネタバレを避けながら短編ミステリーのあらすじを紹介するのは難しいですね

欧米のミステリー小説には国内小説とは違った魅力があります

もし今まで海外ミステリーを読んだことがなくて気になっていたら、クライム・マシンは入門書としてうってつけなので読んでみてください

おしまい

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【流人道中記】名作の予感しかしない:浅田次郎の描く読売新聞の連載小説が面白い

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※流人道中記は2019年10月13日に連載が終了しました。大変素晴らしい作品でした。著者がこの記事を書いてる時はまだ連載中でした。

 

『流人道中記』は読売新聞で連載中の小説です。まだ連載は終わってないですけど

 

初めて新聞の連載小説にはまっちゃいました。しかも時代小説

 

やべえ、マジで面白いっす

武士を主人公にした作品って数冊しか読んだことありませんでした。なんとなく敬遠してたんですよ。理由は特にないんですけど、しいていうならちょっと退屈?

 

それがね、なんとなく読み始めたんです。本当になんとなく

すみません、なんとなくばっかりで

 

だらだらと毎日暇つぶしで読んでました。手に汗握るような作風じゃないので、先が気なってしょうがないという程でもない

 

それがいつの間にか新聞を開くと一番最初に読むようになってた

「アメリカが関税を引き上げた? 知らんがな。それより流人道中記!」

「北朝鮮の飛翔体!? とりあえず却下」

って感じです

大谷君の怪我からの復帰よりも亀吉がどうなるのか、それだけが心配で心配で

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不思議ですよね、今までに浅田次郎さんの作品は数冊読んでました。『鉄道員』や『歩兵の本領』『プリズンホテル』等

でもそこまで夢中にならなかった

それなのに時代小説というあまり好きじゃないジャンルではまってしまいました

 

今更ですが浅田次郎という作家はすごい人です
猛烈に感動した私はウィキ先生で調べちゃいました

小学生の頃から1日一冊本を読み、気に入った本は原稿に書き写すほどの活字中毒

13歳の時に集英社の『小説ジュニア』に初投稿して以降、数々の新人賞に応募と落選を続け、30歳ぐらいの時に群像新人賞の予選を初めて通過した(最終選考には残らなかった) 浅田次郎 - Wikipedia

仕事も自衛隊やライターとして風俗レポ、競馬予想、色々なことをやっていました。そして40歳の時に『とられてたまるか!』でデビュー

 

遅咲きの作家さんだったようですね。ウィキには面白い逸話が沢山あったので興味のある方は読んでみてください

 

浅田次郎は大変な読書家で歴史小説も得意としてました

博識なだけじゃありません、『流人道中記』では武士の習慣や庶民の生活文化を無理なく物語に落とし込んでるんですよ。読んでいてスッと頭に入ってくる

少し前に読売新聞のインタビュー記事で、流人道中記は物語としての面白さを優先させるために、歴史考証にこだわり過ぎないようにしていると言ってました。うるさい人がわざわざイチャモンをつけにくるらしい

 

登場人物の掛け合いはサラリとしているのにユーモアと人情味に溢れてる。でも決して湿っぽくない

心理描写は簡潔にして的確

ぶっちぎりで読みやすい文章

視点は一人称と三人称を混ぜているのにまったく不自然さがありません

時代小説が苦手な人でも無理せず読めますよ

 

浅田ファンにしてみれば「何をいまさら言ってんだ!」って話でしょうね

 

さーせん

 

きっと今までに読んだ浅田作品もそうだったんだと思います。なのに私は気づいていなかった

 

切腹ものですね、申し訳ないでござる

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流人道中記のあらすじ

1860年、江戸末期

不義密通で捕らえられた旗本の青山玄蕃は切腹を拒んだことで蝦夷送りとなる

護送を命じられたのは見習い与力の石川乙次郎という青年です

真面目実直の乙次郎はまだ19歳の若者。貧しい下級武士の次男から婿養子として石川家に迎え入れられ与力の職についていました。本来なら与力になどなれない身分です。

乙次郎はそのことにコンプレックスを抱きながらも、今は罪人とはいえ本来なら口を利くこともできないほど身分の高い青山玄蕃の護送をすることに

江戸から蝦夷松前までの距離はおよそ900キロ、二人の長い旅路が始まります

 

この物語の肝は乙次郎と玄藩の関係性にあります

破廉恥な行いをした玄藩は「腹なんか切れるか」と豪語して蝦夷送りになるのですが、乙次郎はそれが許せない。武士の価値観に照らすと玄藩の言動あるまじき行為。しかも玄藩の妻子はお家取り潰しで路頭に迷う運命です

貧しい暮らしから婿養子として石川家に入り、肩身の狭い思いをしながらも石川家を守る立場の乙次郎からすれば、武士の矜持も家族も守らぬ玄藩は憎悪の対象でした

 

しかし玄藩という侍がこれまた魅力的な人物なんですよね。普段の言動は粗野なのに、人前にでると旗本の貫禄十分、礼儀作法もバッチリ。だから護送中に出会った人々は玄藩のことを罪人だとは気づかない。それにこの男には人情もある

そういった玄藩の姿は乙次郎にとって憧れでもあり、余計に憎しみを掻き立てるのでした

 

映画化されたら売れると思う。ジャンルは幕末版ロードムービー

19歳の乙次郎と35歳の玄蕃。二人の侍は道中に様々な人々と出会い、時にはトラブルに巻き込まれます。

全盲のあん摩師、お尋ね者の賞金首、顔も知らぬ親の仇を数年間に渡って探し回る侍

たいていの場合は飄々とした玄蕃に乙次郎が振り回されるという形なのですが、時には乙次郎だって意地を張る。「融通が利かない」と笑われるけど乙次郎にも抱えてきたものがある

 

この物語は二人が旅を通して少しずつ理解を深め成長していく姿を描いています。実は玄蕃も口には出せない事情を抱えているのです

 

侍とはどうあるべきか? 幕末、長い侍の世にあって法に囚われ礼を忘れた侍に価値はあるのか?

 

なんかこう書くと凄くありがちで陳腐ですよね。もっと文才があればこの作品の魅力を伝えられるんですけど

 

とにかく超良い作品です

 

現在『流人道中記』は佳境を迎えています。今までののんびりした空気が消え、二人は緊迫した状況にあります

 

そんな訳で最近は毎日明日が早く来ないかと気を揉んでる所であります

 

……よく考えたら明日が早く来たら益々おっさんになりますね、もう40だしそれはちょっと嫌かも

 

まあいいか

 

書籍化されたら間違いなく買います

でもまだなのでこのブログではアフィれません。残念

 おしまい

www.imbroke-s.com

 

ロボットSF小説のおすすめを挙げるなら【われはロボット】これしかない! アイザック・アシモフ

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この作品に登場するのはメカニックなロボットです。終盤は違うけど

 

何を言ってるのかわからないと思うので説明すると

 

 SF小説で題材にされるロボットといえば、機械的なロボットよりも人造人間的なやつが多い気がします。

 有名な作品だとカレル・チャペック『ロボット』――原題は『RUR』ロッサム世界ロボット製作所――やフィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』

 

『ロボット』はロボットの語源を生み出した作品です。私たちが知ってるロボットという言葉はこの作品から生まれました。発表されたのは1920年

今日ではテンプレと化した『人が作ったロボットが人類に反旗を翻す』という物語の原型を作ったのもこの作品。戯曲ですが面白いですよ

 

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は映画『ブレードランナー』の原作でもあるので知ってる人は多いかもしれません。監督はリドリー・スコット、主演はハリソン・フォード

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引用 amazon

サイバーパンク映画の代表作として後の作品に強い影響を与えました。映画好きなら押さえておくべき作品だと思います

だたし原作とは内容がかなり違うので、原作ファンの間では評価がいまいち

 舞台となる未来のロサンゼルスはアジアンテイストでちょっと不思議な雰囲気 

 

原作にこだわらなければSF映画として充分楽しめます

 

この2作品に登場するロボットは見た目が最初から人間なんですよ。もっと正確にいうと『ロボット』に出てくるロボットは生体物質から作られた有機体という設定。一般的にイメージされるロボットとはかけ離れてる

『アンドロイドは電気羊の夢をみるか?』に登場するのは題名通り人間そっくりなアンドロイド

ロボットといえばメカニカルでガチャガチャと動き回って欲しいという個人的な好みで今回の紹介からは外しました。

それともう一つ理由があって

読書に慣れていない人が読むには『ロボット』は戯曲ということもありちょっと読みにくい。テーマは百年前に書かれたとは思えないほど今に通じるものがある素晴らしい作品ですが

 

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』も似たような理由で外しました。

SF好きでもない限りはいきなりすすめる作品としては微妙にハードルが高い。ある意味『ロボット』よりも人を選ぶ作品かな

でも面白いのでそのうち記事で紹介します

ロボット三原則を生み出した不朽の名作【われはロボット】

 『われはロボット』は誰にでも紹介できる優れた作品です

古典にして王道。優れた作品はどれだけ時を経ても新しく読める

発表されたのは1950年

後のロボット作品に大きな影響を与えるロボット工学三原則はこの作品から生まれました

1. ロボットは人間を傷つけてはならない。また危険を看過して人間に危害を及ぼしてはならない

 

2. ロボットは第1条に反しない限りで、人間の命令に従わなくてはならない

 

3. ロボットは前提1条及び2条に反しない限りで自己を守らねばならない

 ハリウッドのロボット映画、あるいは鉄腕アトムやロックマンといった漫画はこの設定を使って自律ロボットの苦悩や葛藤を描いています

もはやロボット作品の定番ともいえる設定ですね

 

『われはロボット』はロボットの設定を生み出したパイオニアというだけじゃありません。もっと凄いのはこれだけ後の作品に影響を与えているにも関わらず、ストーリーのオリジナル性が損なわれていないことです

 

つまり今読んでも古さを感じさせない

 

2004年にはウィル・スミス主演で映画化されています。タイトルは『アイ・ロボット』

ロボット工学三原則を巡るアクション映画ですが、小説とは別作品として楽しんだ方がいいでしょう。内容も結末も全然違うので

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 小説の内容(ネタバレなし)

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2058年、地球は統一国家となりコンピューターマシンによって管理された時代。政治、労働、経済、あらゆるインフラが適切にコントロールされた世界は一種のディストピアともとれますが人々は不自由なく暮らしていました

ジャーナリストである「わたし」はUSロボット社を訪れます。目的は近々勇退するロボット心理学の権威、スーザン・キャルヴィンを取材するため。

キャルヴィン博士の50年に及ぶキャリアはロボット産業の黎明期から太陽系への進出、そしてロボットと人々の関係が大きく変わってしまった近年まで、まさにロボットの歴史そのものでした

冷徹だけどどこか寂しそうなキャルヴィン博士、彼女の口から語られるロボットの逸話にわたしは耳を傾けるのでした

 

キャルヴィン博士の回想で始まるこの物語は9編の連作短編として構成されています

 

それぞれのあらすじを簡単に紹介します

 『ロビイ』

喋ることができない子守ロボット、ロビイ。黎明期におけるロボットと子供の交流を描いた温かくも切ない物語

 

『堂々めぐり』

水星に派遣されたパウエルとドノヴァン。彼らがエネルギーの採掘を指示していたロボット、スピーディが突如言うことを聞かなくなってしまう

業務を放棄してぐるぐると回り始めるスピーディ。一体何故? 2人はロボット三原則の間で生じる葛藤が原因になっていることを突き止めたが、早く解決しないと自分たちの命まで危ない

コミカルな二人の技師がロボットに起きたエラーの原因を探る姿を描いたサスペンス

 

『われ思う、ゆえに……』

宇宙ステーションに着任したパウエルとドノヴァン。二人が組み立てたロボット、キューティは「自分の方が人間よりも優れている」と言い出し、エネルギー転換器を神と崇め始める

まるで宗教家にでもなったように振舞うキューティに二人は混乱してしまう

 

『野うさぎを追って』

小惑星に来たパウエルとドノヴァン。性能テストでは問題なく動くロボット、DV5号が実地になると奇妙な行進を繰り返す。本人に聞いても「わからない」と答えるDV5号に対して二人がとった行動とは

 

『うそつき』

偶然生み出された人の心を読むロボットRB34号。面会した若き日のキャルヴィン博士は片思いを寄せる男性についてRB34号から意外な言葉を聞かされる

真実とロボット三原則の間で揺れるRB34号を描いた傑作

 

『迷子のロボット』

とある事情からロボット三原則をプログラムされなかったロボットが逃げ出してしまう。ロボットは同型の64台の中に紛れているのは確かだが見分がつかない

調査に乗り出したキャルヴィン博士とロボットの心理戦を描いたミステリー

 

『逃避』

USロボット社はライバル社から星間航行用エンジンのデータ解析を依頼される

キャルヴィン博士はそのデータに人の死に関するジレンマがあることを承知した上で試しに電子頭脳に解析させた。すると本来なら戸惑うはずの電子頭脳はあっさりとデータを解析し宇宙船を完成させてしまった。

ライバル社に先んじて宇宙船を完成させたことに喜ぶUSロボット社上層部だったが……

ロボット三原則があるにも関わらず、星間航行における人の死という矛盾をどうやって電子頭脳は乗り越えたのか?

 

『証拠』

優秀な検察官にして次期市長選に立候補しているスティーヴン・バイアリイ。彼は誰にも飲食や睡眠の姿を見られていないことからロボットの疑いがかけられていた。政治家に調査を依頼されたキャルヴィン博士はバイアリイと面会するが……

 

『災厄のとき』

世界を完璧にコントロールしていたはずのマシンに誤差が生じる。それは失業者の増加や食料の余剰からも明らか。世界統監になっていたバイアリイはその原因を探るべくキャルヴィン博士に相談するが彼女の答えは意外なものだった

 私はこの話が一番好きです

 

見所

どの話もロボットに課せられたロボット工学三原則にまつわる話です。エラーを起したロボットの原因を探るミステリー仕立てになってます。

でもただのミステリー集じゃありません。この物語は話が進むごとにロボットと人との関わり方、もっと言うと世界が変化していきます

ロボットの頭脳が進化したことで最終的には飢えや戦争、テロといった不幸が取り除かれた世界が完成。未来予知に近い計算をやってのけるマシン

マシンはロボット工学三原則に則っていつでも人間の幸福を願っています。その想いが完璧過ぎるがゆえに、人々が予想する未来とは違う未来を歩む可能性を示唆して話は終わります

完璧な世界に疑問を持つのが人間ではなくロボットというもの皮肉な話です

 

まとめ

『われはロボット』はSF小説の金字塔と言われています。一貫したテーマを飽きさせずに読ませるストーリーの妙、わかりやすい文章

 

 優れた作品は時を経ても色あせない。まさにそれを体現した作品だと思います

 おしまい

SF初心者こそ読むべき海外小説【星を継ぐもの】:絶対におすすめ

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SF小説。普段から小説を読む人でもなかなか手にとらないジャンルの一つはないでしょうか。

私の周りにはSF小説を読む人はいません。それどころか最近は読んでる人を見たことがない

私がSF小説にはまるきっかけとなった本。海外小説初心者にもすすめます

なぜSFを読む人が少ないのか?

どうしてでしょうかね、ちょっと理由を想像してみました

 

なんとなく小難しそう。物理とか化学とか苦手だし……

 

大丈夫です。いまだに直流と交流の違いがわかってない私でも読めます

 

SF小説って表紙とタイトルを見ても内容が想像できないんだよね

 

それは……たしかに。特に海外の小説はその傾向が強いかも

 

おや、ちょうど手元にSF小説があったので見てみましょうか

 

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『重力が衰えるとき』『スは宇宙のス』『涼宮ハルヒの憂鬱』『俺、ツインテールになります』『虎よ、虎よ!』

 

どれも世界を代表するSF小説です

 

うーん、たしかにタイトルを見ても意味がわからない。ここまで酷いと内容を知らせる努力を放棄してると言われても仕方ない

 

すみません、コレに関してはどうしようもないですね。でもどの本も面白いですよ

 

かくゆう私もSF小説を読むようになったのは三十を過ぎてからでした

 

そのきっかけとなったのがたまたま読んだ『星を継ぐもの』です

 

あらすじ

現在よりも少しだけ発展した地球が舞台。

ある日、月面で宇宙服を着た男性の遺体が発見されます。身元を調べると地球の誰とも照合しない。

さらに驚くべき事実が判明します。残留する同位元素の分析によって5万年前に死亡していたことが確認されたのです。5万年前の地球人? 宇宙服を着た? 

しかも遺体の所持品はある部分においては地球の科学水準を超えている。使われている文字は地球のものではなく解読不能

宇宙人かと疑われましたが、それにしてはあまりに肉体の組成が地球人と似すぎてる

地球人だとするならば遥か昔の地球に高度な文明が存在したのか? それならなぜ地球でその文明の残滓見つかっていない?

 

謎の遺体はチャーリーと名づけられ、世界中から集まった各分野のエキスパートによって分析が開始されます。その中の一人が物語の主人公であるヴィクター・ハント博士

 

ハントは研究者たちを纏め上げてチャーリーの肉体や所持品の解明に取り組む

まるで粉々に砕けたガラス板を元に戻すような地道な作業。断片的にわかってきた事実が更なる謎を呼んでハントたちを悩ませるのでした

しかし彼らの飽くなき探究心はチャーリーの謎に迫るだけでなく、図らずも人類の起源に迫る壮大な物語を紐解くことになっていく

 

はたしてチャーリーはどこからやってきたのか

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見所

この小説を読み終わってまず思ったのが、

 

SF作家ってすげえな

 

作中には言語学者や数学者、生理学者など多くの研究者が登場します。

彼らは専門の知識を活かしてチャーリーの身体や所持品の手帳、電気器具などを解明していくのですが、その様子が非常に克明に描かれているのです

 

例えばチャーリーの細胞代謝の周期から睡眠時間と起きている時間を割り出し、一日の長さを調べ、筋肉の構造と骨格から体重と力の比率を計算してチャーリーの住んでいた惑星の質量にあたりをつける

 

すみません。自分で書いててさっぱり意味がわかりません

 

とにかく作家のJ・P・ホーガンの博識ぶりには驚くばかり。一から調べたにしても膨大な資料と取材が必要だったでしょう

これだけの知識を咀嚼して物語としてまとめるなんて変態の所業としか思えません

 

本当に凄すぎです

 

『星を継ぐもの』は研究者たちが謎に迫る様子にスポットを当てた物語です。作中では彼らが集まって議論する様子が頻繁に描かれています。

 

でもね決して退屈な小説じゃないんですよ。

小さな手がかりから真実に近づいていく様は探偵小説に近い。次々とわかる新事実がそれまでの定説を覆していくスピード感。

研究者の懸命に謎を解き明かそうとする姿は一種のスポ根のようで熱い

チャーリーの身体や手帳を調べていくうちに彼の身に起こった出来事もわかってくる。それは人間ドラマなんですけど、それだけじゃなく人類の起源にまで踏み込んだスケールの大きな話へと繋がっていく

最後は感動しますよ

 

まとめ

『星を継ぐもの』はSF小説の中でもハードSFというジャンルに位置づけられています

ハードSFとはウィキ先生によると、

科学性の極めて強い、換言すれば科学的知見および科学的論理をテーマの主眼に置いたSF作品

 もうねこんな説明をされたら誰もハードSFなんて読まんですよ。一見さんお断り感がハンパない

 

要するに小難しい小説ってことなんですけど、『星を継ぐもの』に関しては断言します

 

決してそんなことありません

 

さっきも書きましたけどこの作品は科学的知見に物語がちゃんと融合してるからです

つまり読んでて面白い、先が気になってしょうがない。どうして映画化されていないのか不思議

それに事実も織り交ぜているので賢くなった気分になれる

 

私はこの本で人の進化の過程に連続性が欠けていることを知りました

それまではふわっとした感じで類人猿がいて進化してアウストラロピテクスとかホモサピエンスになったんだろうな程度の知識しかありませんでした

 

月の表層が場所によって厚みが全然違うことも知らなかった。

 

あまり書くと物語のネタバレになるのでこのへんにしときます

 

『星を継ぐもの』はシリーズ化されていて『ガニメデの優しい巨人』や『巨人たちの星』といった作品も出てます。

興味を持った方は是非読んでみてください。読み終えた後はきっとSFが好きになってますよ

おしまい

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