ダメラボ

ダメなおっさんが色々と妄想していますよ

カンボジアへ行こう!カンボジア版【ファイトクラブ】に参加した話

『ファイトクラブ』、私が好きな作品の一つです。有名な作品なのでご存知の方も多いと思います

 経済的に恵まれた主人公である僕、石鹸の製造販売をしているタイラー・ダーデン。二人の殴り合いが奇妙なコミュニティを生み出し、やがて……

 主演はエドワード・ノートンとブラッド・ピット。監督はデヴィッド・フィンチャー

 

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この映画は小難しい解釈や伏線ばかりが取り上げられますが、頭を空っぽにして見ても十分楽しめます

むしろそっちのほういいかもしれません。見るたびに印象が変わって何度も楽しめるからです。

面白い映画なのでよかったら観てください。

 

 

カンボジアの思い出

二十年近く前になりますが、私は裸の大将みたいにぶらり一人旅をしていたことがあります。

行き着いたのはカンボジアの首都、プノンペン。たぶん時期は二月だったと思います。中華系の住民が旧正月を祝っていたのを覚えているので。

 

 当時のプノンペンは内戦の爪跡がまだ残っていて、第一印象はくすんだ灰色の都市。

 

 建ち並ぶコンクリートの建造物はどれも古く、銃弾の跡が生生しく残っていました。街はお世辞にも綺麗とはいえません。それでも行き交う人々には笑顔と活気があります。

 

しかしどこか暴発しそうな危うさも漂っていました。

 

すでにカンボジア国内を一週間ほどうろつき、山賊に襲われたこともありましたが、ここが一番ヤバイ匂いがしました。正直怖かったです。

 

プノンペンに到着した私は、街の雰囲気に圧倒されたままトラックの荷台から降りました。

 

「メエ゛エ゛エ゛」

「コケッ、コケ」

 

荷台に乗っていたヒューマンは私だけ、残りはヤギと鶏です。六時間の長旅は辛かった。

 

「ばいなら」

 

仲間に別れを告げると、安宿を探して歩き出します。

 

移動手段が家畜同様となってしまったのには理由があります。一言で述べると騙されました。

激安につられた私が悪いとも言えますが。

 

 不安なままに始まったプノンペン生活。

 

しかし五日も過ぎれば感覚は完全に麻痺していました。この都市はあまりにもフリーダム過ぎたのです。

 私の滞在していた地区がひどい場所だったせいもありますけど。

近所で遭遇した出来事

 ピザ屋でピザを注文したら店員に「トッピングのハーブの量は?」と聞かれた。ハーブと言うのはもちろん不健全な方のハーブです。

っていうかその店員、コ〇インでラリッたままピザを作ってた。

 

鼻から小麦粉を吸引する特殊性癖の人だと思ってましたよ。

 

近所を歩いていると警官に「ハーブはいらないか」と聞かれる。もちろん不健全なハーブです。「いらない」と言ったらMD〇Aを勧めてきた。断ったら自分の警察バッジを売りつけようとする始末。

 

馴染みになった露天でライターを探していたら店主から「これなら五十ドルでいいよ」とリボルバーを渡された。

あまりに自然に渡されたので、この国では実銃で煙草に火をつける文化があるのかと本気で勘違いしそうになりました。

 

大暴動が起きて街が火と銃声に包まれる。銃尻で殴られて怪我をした。乗ってたチャリンコを奪われた。

 

路上で売られている安酒を愛飲していたのですが、容器はその辺に捨ててある空き缶をそのまま使ってた。安いからいいけど。でも空き缶にファンタのピーチ味が多かったのはなぜ?

 

ブレイブハートとかいうイベントに誘われて行ったらただのファイトクラブだった。

 

 前置きが長くなりました。今回はこのファイトクラブの話をしようと思います。

 

イベントに誘われついて行く

知り合いになったエマ(フランス人)から「面白いイベントがあるから行こう」と誘われたのです。男だったらお断りなのですがこの方は若い女性。

 

私は一も二もなくウンウン頷きました。

 

なんかこう書くと外国人とコミュニケーションが取れているように勘違いされるかもしれませんが、私は碌に英語を喋れません。ニュアンスです。筆記体も読めないし、ぶっちゃけ頭はかなり悪いです。

 

イベントの開催地はプノンペンから乗り合いバスで一時間ほどの離れた場所。我々はさっそくバスに乗り込みました。

 

しばらくすると市街地を抜けます。

 

「ここをずっと行った所でやってるの。楽しいイベントよ、きっとあなたも気に入るわ」

エマは楽しそうです。どうやら初めて行く訳じゃないらしい。

 

周囲には小さな集落しかありません。長閑な風景が広がっています。

 

ちなみ我々が乗っているバスは、小さなトラクターが荷車を引くだけの簡素なものです。

乗っているのは地元民だけ。彼らは動いているバスから気ままに乗り降りしています。

 

「……」

これヤバイやつだとすぐにピンと来ました。

無法ぶりを発揮しているプノンペンですが、本当にダメな部類の商売は都市部から外れた場所で行われているからです。

 

そういう情報は安宿にいれば嫌でも入ってきます。

 

バスを降りてしばらく歩くと、やがてひとつの集落が見えてきました。時間はすでに夕方。

 

見たところなんの変哲もない村です。

私はエマに連れられて雑貨屋? みたいな店に入りました。

店は食堂も経営しているらしく庭先にはテーブルが五つほど野ざらしになっています。

 

その店はカンボジア人のおばさんが経営していたのですが、彼女は我々が来店しても完全無視。怒っているわけじゃない、自分は一切関与しないという雰囲気です。

 

ああ、ヤバイよコレ……

 

エマは笑顔のままです。勝手に店の奥へ入ると裏口から中庭へと抜けていきます。まるで自分の家みたいに堂々とした振る舞い。

 

庭を横切っていると大音量でユーロビートっぽい音楽が聞こえてきました。音の出処は隣接する家屋のガレージです。

簡素な整備工場みたいになっていて結構広い。

 

ガレージには四十人近い欧米人がいました。皆、酒やドラッ〇でラリってます。踊っている者、小銃や手榴弾を掲げてはしゃいでる愚か者もいます。

誰もが大声で騒いでいるので非常にうるさい。

 

「どう? 楽しそうでしょ。ポリスは来ないから安心してね」

エマは屈託なく笑っています。

「ちゃんとお金を渡してるの。念の為にここの住民が見張りもしてるわ」

 

「……イベントってこのパーティの事?」

「そうよ、ブレイブハートっていうの。もうすぐ始まるファイトクラブがメインイベントね、ファイトクラブは知ってる? ブラッドピットってイケてるわよね、私すっかりファンになっちゃった」

「……」

 

なんだ、浮かれた外人たちがパーティをしてるだけでした

 

てっきり猛獣相手に素手で戦うとか、いたいけな幼女に拷問するとか、人間やウンコを食べるとか、そういう退廃的でおどろおどろしいものを想像してましたよ。

 

ビビって損した

 

エマからチケット代の三十ドルを請求されたので払います。

金を受けとった彼女は「じゃあ楽しんでね」と手を振ると去ってしまいました。

それっきり私は放置プレイ。

 

後から知ったのですが彼女はこのパーティの主催者の一人。つまり私はカモられただけ。

 

パーティに集まっているのはほとんどが欧米人。数人の男は地元民でしたが、世話役みたいな感じです。主催者らしきアメリカ人にペコペコしてました。

 

来てしまったものは仕方ない。私は椅子に座るとビールで時間を潰します。

 

正直言ってこの手のパーティは好きじゃありません。

 

浮かれた参加者からは「どうだ! 俺ってワルだろ!!」みたいなイキリ感が滲み過ぎてるんですよね。

こういう人たちはちょっと苦手です。

 

実態以上に自分を大きく見せようとして、ろくでもないトラブルを引き起こす可能性大だからです。特に酩酊している時は危険。

 

煙草をぷかぷかしていると、

 

「あの、失礼ですがもしかして日本の方ですか?」

 

と話かけられました。思いっきり日本語です。近寄ってきたのは私よりも一回りは年上の男性。

 

「はい、そうですよ」

「ああ良かったあ、間違ってたらどうしようかと思いましたよ。日本人とカンボジア人は似てるから日焼けしてると区別がつかないんですよね」

男性は黒瀬と名乗りました。日焼けした小太りのおじさんです。

 

「私も黒瀬さんをカンボジア人だと思ってましたよ。日本人だったんですね」

 

こんな田舎で日本人に会うとは。それは黒瀬さんも同じだったようで会話が盛り上がりました。

 

黒瀬さんはカシオの工場で働いていたけど鬱病とパニック障害で退職したそうです。そんな自分を変えたくて旅に出ることを決心しました。

 

彼はベトナムからここまでの道中のことを楽しそうに語ってくれました。

英語を上手く話せなくて税関でトラぶったことや、移動のバスで睡眠薬を盛られて所持金を奪われたこと。他にも色々と苦労したようです。

 

「それで何かきっかけを掴めましたか? この旅で変われそうですか」

「そうですねえ、僕こんな見た目でしょ? それに押しも弱いから子供の時からよくいじめられていたんですよ。大人になってからも同じで金をせびられても断れなくて……」

 

黒瀬さんは小柄で優しそうな顔をしています。眉なんていつもへの字です。

 

「でもねこの旅を通じてタフになりましたよ。この前初めて屋台のボッタクリに文句を言ってやりました。日本語ですけど。あれは嬉しかったなあ……人に感情をぶつけたのは生まれて初めてですよ。すっきりしたなあ、大袈裟じゃなく生まれ変わった気がしました」

 

恍惚とした表情でそう語る黒瀬さん。

 

「だからもっと変わりたくてこのイベントに参加したんです」

 

黒瀬さんは主催者の一人であるアメリカ人に誘われてこのイベントを知ったそうです。私と同じですね。

でも彼はこのイベントの主旨を知った上で参加してました。

 

「ファイトクラブ、いいじゃないですか。僕あの映画大好きなんですよ。人なんて殴ったことないから楽しみだなあ」

「……え!? もしかして殴り合いに参加されるのですか?」

「もちろんです!」

 

 黒瀬さんはファイトクラブがいかに素晴らしい映画かを語りはじめます。

 

ファイトクラブは暴力と無縁に生きる普通の人々が本気の殴り合いをすることで生きている実感を取り戻す映画です。

彼らはそうすることによって動物としての原初の本能を取り戻します。それが飛躍しすぎて物質社会を不要なものだと信じ込み、非合法な活動に手を染め始めるのです。

 

黒瀬さんは映画の内容をそのままトレースすることにしたらしい。

 

「……そ、それで対戦相手はどの人ですか?」

「エイデンっていうデブの白人ですよ。ああ、いた! アイツです」

 

口調がすでに戦闘モードに入っています。彼が指さすのは、

 

「……あの人はヤバくないですか。別の人に変えてもらった方が……」

 

手榴弾でお手玉をして遊んでいる巨漢でした。歳は太っててわかり辛いですが三十は超えてそうです

 

あれでお手玉するのは絶対に止めた方がいいと思う。手榴弾がボロボロなんですよね。たぶん内戦時代のものに火薬を後詰めしたやつです。作りが甘いからちょっとしたことで動作不良を起します。

 

取り返しのつかない大怪我をする可能性大です

 

プノンペンの激安を売りにしたシューティングショップでは、ああいう火器を平気で客に使わせます。

 

「そうですか? でもファイトクラブでは――」

 

黒瀬さんはあくまで映画にこだわるようです。確かに映画では弱そうなサラリーマンがタフな男を殴ることで覚醒するシーンがあるのですが……

 

私は心配になって言いました。

 

「勝ち負けはともかくあのエイデンって人、完全にラリってるじゃないですか。目なんてクルクル回ってますよ、あの調子じゃ加減ができないから大惨事になっちゃうかも」

 「ふんッ、アイツは臆病者なんですよ。薬に頼るなんてファイトクラブの主旨がまったくわかってない。いいですかファイトクラブっていうのは素面じゃなきゃ意味ないんです。殴られた痛みによって生の喜びを感じる必要があります。だいたいアメリカ人のくせにファイトクラブをちゃんと理解してないとは……」

 「たしかに仰る通りですけど……」

 

やる気満々の黒瀬さんをよそに不安は募るばかり。

屋台で初めて子供に苦情を言った人が巨漢のアメリカ人と喧嘩するなんて嫌な予感しかしません。

 

「ファイ!」

 

そしてとうとうファイトクラブが始まりました。会場はガレージの中、その日に組まれた対戦は六試合、黒瀬さんは四試合目です。

ルールは特にありません。グローブも無し。試合は賭けの対象にもなってました。

 

「ファ○ク!」

「ファッ○ンエイ!」

 

みんな汚い言葉を発してボカボカと殴り合ってます。観客は彼らを囲む形で歓声を上げる。

 

ファイトクラブといっても所詮は素人の殴り合いです。子供の取っ組み合いみたいな試合ばかり。関節技を使う人もいませんでした。あっ、肘は有りか痛そう。

 

鼻血が出たり口を切ったりしてますが思ったより普通でした。大怪我はしても死ぬことはなさそう。

 

参ったと意思表示をするか、動けなくなったら試合終了。そのあたりの裁量はレフィリーの気分次第。タップと言ってるのに試合が続くこともありました。

 

観客はおかしなテンションで盛り上っています。

 

もっと凄惨な試合になるかと思ってたのでちょっと安心しました。

 

三試合目、ドイツ人のハイキックが相手の側頭部を蹴り抜きます。一発KOで決めてみせました。やばそうな倒れ方でしたが大丈夫でしょうか。

 

 KOされた人が蹴り出されるようにして追い払われてます。次は黒瀬さんの番です。

 

「……」

 

黒瀬さんめっちゃブルってました。顔が青ざめて、気の毒になるぐらい脚がガクガクです。短パンがずり下がってるのに気づいてない。

 

汚れた白いシャツの裾を握りしめて震えをどうにか抑えようとしてます。

 

私は彼の緊張をほぐそうと笑顔で励ましの声をかけました。

 

「黒瀬さん! 生きてる実感を味わえて良かったですね!」

 

今考えると酷いセリフです。皮肉にしか聞こえなかったでしょう。きっと私も緊張していたんだと思います。

 

「ハイ!」

 

声を裏返らせる黒瀬さん。私の失言を気にする余裕はありません。

 

「シッシシシシ――」

 

エイデンが巨体を揺らしています。なぜか『シ』ばっかり言ってます。身長は百八十ある私よりも明らかに高い。横幅は太っているので計測不能。

 

「ファイ!」

「ゴーゴーエイデン!」

「シシシシ!」

 

歓声の中、ドスドスと黒瀬さんに迫るエイデン。動きは想像以上に遅い。でもブルッた黒瀬さんは棒立ちです。

 

「ちょっと! 黒瀬さん! せめて逃げて!」

 

私は慌てて叫びます。黒瀬さんの耳元で。

 

目前まで迫ったエイデンが拳を振り上げました。ようやく我に返った黒瀬さんは顔面を両腕で庇う。

 

「ぶっっ!?」

 

殴られたのはなぜか私でした。ノーガードの横っ面を吹き飛ばされて、意識が飛びます。

 

重量級の人に殴られたことがありますか? 拳のスピードは明らかに遅いのにイメージと威力が桁外れに乖離しています。だって普通に身体が浮きましたからね。

 

「ちょ、ちょっと!? 嘘でしょ、あの人おかしいですよ! この試合止めて!」

 

私は尻餅をついたまま、テンパってレフィリーに叫びます。ほとんど悲鳴に近い声でした。

 

しかしレフェリーは鍋を頭に乗せて、腰をカクカク振っていました。

 

忘れてました彼もラリってるのを。

 

私はエイデンを見ました。お薬がキマり過ぎて訳がわからない状態なんだと思ったからです。

 

「シシシシシ、ソーーーリー」

 

彼、目が笑ってましたね。口調も。

 

旅行中に何度か見たことのある目です。欧米人特有のアジア人を見下してる目。日本人なら何をしてもスゴスゴと引き下がると決めつけた目。

日本にいる米兵にもこういう輩がいます。

 

ただの被害妄想で彼はラリってただけなのかもしれません。しかしそんなことは知ったこっちゃない。

私はイラッとしました。

 

「シシシシ――」

「会心の一撃!」

 

薄笑いを浮かべていたエイデンに黒瀬さんがパンチを入れました。腰の入った正拳突きです。

 

「会心の一撃、会心の一撃、会心の一撃――」

 

ネタじゃありません。黒瀬さんは本当にそう言ってパンチを浴びせ続けてました。顔は真剣そのもの。

イラついたエイデンがモンキーとかイエローとか言いながら蹴り飛ばしても転がって脚にしがみついてます。

 

勇気を貰った私はエイデンにドロップキックをお見舞いします。ふらつくエイデン。

 

会場は大盛り上がりです。

 

私の参戦に驚いた黒瀬さんが「お母さん!」と叫びます。

 

この人のことがさっぱりわからなくなりました。

 

「ファ○ク!」

なぜかレフィリーのアメリカ人まで怒って参戦してきました。それを止めようとした別の誰かと取っ組み合いを始める始末。

 

会場の盛り上がりは狂乱状態です。

 

私はエイデンに殴り飛ばされ、黒瀬さんもボコボコにされます。途中で誰かが発砲したような気もしますが、アドレナリンが出まくってて気にもしませんでした。

 

でもね、たまに我に返っちゃうんですよね。

 

「シシシッシ」

「会心の一撃、会心の一撃、会心の一撃――」

「……」

 

参戦しておいてなんですけど、イマイチ戦いに身が入りません。

 

結局我々の試合は打ち切りになりました。エイデンが過呼吸を起してぶっ倒れたからです。

 

素に戻った黒瀬さんが慌ててエイデンの看病を始める始末。そうなるとなんだか良い感じで試合は終わってしまいました。観客の数人が黒瀬さんの肩を叩いて「グッジョブ」とか言っちゃってるし。

 

翌日、黒瀬さんとはプノンペンで別れました。彼はバンコクに向かうそうです。

 

我々の顔は紫色の痣だらけです。黒瀬さんは前歯が折れてました。私の左耳はこの時のことが影響してちょっと悪くなってしまいました。

 

黒瀬さんには別れる時になぜか凄く感謝されました。ちょっと泣いていた気がします。

 

当時は旅で知り合い、仲良くなった人とはアドレスを交換する習慣があったのですが、我々はしませんでした。

 

黒瀬さんがそれを望んだからです。

 

彼は困ったような笑顔で言いました。

「昨日の事は一生忘れません。大切な思い出はそれだけで取っておきたいのです」

 

なんとなく言いたいことはわかります。不器用な黒瀬さんらしいです。

 

「それでは山口さんお元気で! よい旅を!」

「はい! 黒瀬さんこそ。いつかまたどこかで。それと旅行保険に入ってるんですよね、だったらバンコクで歯医者には行ってくださいね」

「ははは、保険下りるかなあ、でもありがとうございます」

 黒瀬さんは満面の笑みを浮かべて去って行きました。

 

あれから二十年近く経ちます。黒瀬さんの言う通りでした。思い出はちっとも色あせません。

私はあの時の黒瀬さんの笑顔を今でもはっきりと覚えてます。

 

最後に

カンボジアにおいて薬物や銃器の所持販売は違法です。罰則は他のアジア諸国に比べても厳しかったはず。

私がこういう出来事によく遭遇したのは、興味のおもむくままに行動したからであり、金をけちって安全性を犠牲にしたからです。

カンボジアは日本ほど治安が良いわけではありませんが、正しく旅行すれば命の危険にさらされることは滅多にありません。