5月21日、日本は裁判員制度を始めて10年を迎えます。ここ数日新聞各紙では特集記事が組まれていました
記事によるとこれまでに9万人を越える人が裁判員として裁判に参加したそうです
そして裁判員を経験した人の9割が『人生にプラス影響を与えた』と答えたらしい
プラスになった理由としては
- 社会貢献を実感した
- 加害者にならない教育の重要性を実感した
- 難しい問題を議論して結論を出し、自信が持てた
等が挙げられていました
もちろん良いことばかりでなく、人を裁くがゆえの重責が後々までストレスになったり、仕事や家庭の事情をやりくりして裁判に参加する大変さもあったそうです
『十二人の怒れる男』は陪審員の討論を軸にしたサスペンス映画
『十二人の怒れる男』はそういった一般の人が『難しい問題を議論して結論を出す』ことの難しさをテーマとしています
この作品ではテーマがサスペンスと上手くマッチしてるんんですよ。これ以上ないくらい
初めて見た時は感動しました。こんなに面白いサスペンス映画があるんだって
えー でもこの映画って古いモノクロ映画でしょ? ちょっとなあ……
おだまり!!!
と言いたい所ですが気持ちはわかります
学生時代、映画通気取りの私は相当数のモノクロ映画を観ました
市民ケーン、無防備都市、第三の男……等々、メジャー級は邦画も含めて押さえてます
どれも良い映画だとは思うのですが、今の映画に慣れ親しんだ若い人に「何か面白い映画を教えて」と聞かれた時にこれらの作品を勧めるかと言われたらちょっと迷ってしまう
昔の映画ってテンポがゆったりしてるんですよね。さらに白黒でしょ
現代映画と比べると不利感は否めない。それを覆すほど面白い映画ももちろんありますが
モノクロ映画に関してはぶっちゃけ内容を覚えてないのも多いです。途中で寝落ちしたやつもありますし
自分には映画通を気どるのは無理だと思いました
すんません、正直言うとハリウッドのお金ばかりかけた拝金作品が大好きです。ド派手で退屈だけはせんし
「十二人の怒れる男」は今のサスペンス映画と比べても自信を持ってお勧めできる作品です
この映画は陪審員同士が議論を深めていくことで殺人事件の真相に迫るという形をとっています。舞台は彼らが集まる会議室のみ、いわゆる密室劇というやつです
だから派手なカメラワークやアクションは要らない。必要なのは俳優の演技と言葉のみ
昔の映画特有のテンポの遅さが、登場人物のセリフや表情をじっくり捉えるというメリットに変わってる。そのおかげで自分まで議論に参加してる気分で映画に引き込まれます。展開も早いのでダレることはありません
おかげで画面に色がついてるかどうかなんて気にならないです。それどころか俳優の演技にカラー映像にはない生々しさを感じるんですよね
モノクロ映画のよさがたっぷり詰まった作品になってます
とにかく娯楽作品として超面白い映画
ワンシチエーションのサスペンス映画としてトップクラスの映画だと思ってます
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あらすじ
黒人少年による父親殺しの裁判は佳境を迎えていた。有罪となれば死刑という状況の中、会議室には12人の陪審員が最後の結論を出そうと集まっていた
審判に必要なのは12人全員の意見が一致すること
状況証拠は少年に対して圧倒的に不利
誰もが有罪を確信する中、投票が始まる。
ところがそこで1人の陪審員が無罪を主張します
明らかな有罪なのに何故?
夏の蒸し暑い会議室から早く解放されたい他の陪審員は彼の無罪投票に苛立ちを隠せない
「君は少年の無罪を信じているのか?」
「いえ、まだ決めかねています」
「それじゃなぜ無罪に投票したんだ?」
「これは少年の生死を裁く裁判です。時間はまだあります、皆で十分な議論を尽くしませんか?」
そう言って皆を説得する陪審員も無罪を信じているわけじゃない。ただ結論を急ぎたくはない様子
最初はやる気なく話し合いを始めた陪審員たちだったが、次第に個人の思惑や先入観を交えて激しい議論を展開していく。彼らは少年に一体どういう審判を下すのか?
見所
登場する陪審員には名前がありません。1番や8番と番号で呼ばれています。これは陪審員の匿名性を守るため
12人の陪審員だけで物語は進み、容疑者である少年や証人も登場しません。舞台は会議室だけなので動きも少ない
無駄がない分だけ視聴者は陪審員の会話に集中でき、没入感が高まります。蒸し暑い部屋の中で汗を拭いながら議論している陪審員を見ているとこっちまで汗が出そう
陪審員は番号で呼ばれているとはいえ、それぞれのキャラクターや見た目がしっかり分けられています。
モノクロ映画は慣れていないと人物の見分けがつかない時がありますからね。特に複数の人物による会話劇では見分けがつかないのは致命的。この辺は演出側の配慮がうかがえます
息子と仲違いしてる会社経営者の3番、冷静で論理的な株式仲買人である4番、スラム育ちの労働者5番
見た目もわかりやすく違うので混乱することはないでしょう
主役は最初に無罪へ投票した8番の陪審員です。演じているのは名優ヘンリー・フォンダ
彼の提案による話し合いは、状況を整理するためまず「どうして少年を有罪だと思ったのか?」という所から始まります
陪審員たちは少年を有罪だと決めた根拠を述べるのですが、議論が進むとその根拠がいかに思い込みや証人のあやふやな発言に左右されていたのかに気づかされます
それぞれが境遇も抱えてる事情もさまざまな陪審員たち。彼らが意見をぶつけることで思いもしなかった事実が浮かび上がり、ますます混乱する審議
はじめは有罪だと思っていたけど疑念を抱く者、それでも頑なに有罪と言い張る者
はたして少年は本当に有罪なのか
まとめ
完全な主観ですけど、私にとって良い映画とは印象に残るシーンがあるかどうかというのが大きかったりします
この映画では二つのシーンが印象に残ってます
1つ目は最初の投票で8番が無罪を主張して話し合いを促すシーンです
彼には無罪を主張する根拠はまったくなくて、ただ大事な裁判だからもう少し話したい
それだけを望みます。このなんともいえない消極的な動機が主人公らしくなくて印象に残ってます
そんな8番のセリフに私はめっちゃ痺れました
まだ冒頭のシーンなのに「これ絶対面白いやつだ!」って確信しましたもん。根拠はないけど
裁判員制度が浸透しつつある今ならば8番のセリフは誠実で当たり前として聞き流したかもしれません
でもこの映画を見たのは学生の時。裁判員制度なんて何も知らない時です。だから彼のセリフはものすごく新鮮に感じました。
「そうだよな、結論が変わらなくても議論を尽くすのは大事だよな」
って
近所のおっちゃんみたいに感心したのを覚えてます
2つ目は最後のシーンです
裁判が終わると陪審員たちは解散して部屋を出て行きます
裁判所を出た所で8番の陪審員は1人の陪審員に声をかけられるんですね
互いに名前も知らない2人はそこで初めて名乗ります
長ったらしいやり取りは無くて、さらっと互いの名前を名乗るだけ。それからすぐ別れる。
なんたるクール あれほど熱く討論し濃密な時間を過ごしたのに、あっさりしたものです
だがそれがいい
と言うわけで『十二人の怒れる男』は私のお気に入りの1作です
なんだか主観が多すぎて本当に面白いのか疑われそうな紹介でしたが
絶対面白いです
癖がなくて万人受けする作品ですよ
監督は『オリエント急行殺人事件』も手がけたシドニー・ルメット
さっきネットで調べたらロシアでリメイクされてるみたいですね
でもロシア版よりまずは元祖を見てください
おわり