まず始めに言っておくと私は情緒があって感受性豊かな男です。決して冷血漢ではない
だから当然映画やアニメを見て咽び泣くことがあります。小説だと志賀直哉の『和解』は静かに泣けました
例えば『今を生きる』のラスト、生徒たちが机の上に立って教師役のロビン・ウィリアムズを見つめるシーンではわーんと泣きます
『ハチ公物語』の終盤は面倒見の悪い教授の娘に腹を立てながらハチの健気さにえっぐえぐ泣く、雪の中でハチが倒れ伏すシーンなんて大号泣ですよ。ちなみに仲代達矢が主演してる元祖の方ね、リチャード・ギアのやつは観てない
『ロミオの青い空』の最終回は今見ても鼻水垂らして泣きまくりんぐ
泣くだけじゃありません
高校生の時にテレビで見たエヴァンゲリオン。これは終盤のデタラメな展開と紙芝居みたいな作画に腹を立て「二度と庵野秀明が関わった作品は見ない」とムカついてその誓いを頑なに守る男です。その後に公開された劇場版エヴァも観てないし(とか言いながらつい観ちゃいました。そしたらテレビの総集編みたいな水増し内容だったので「やっぱりなクソ野郎!」と怒りを新たにしたのです。その後も気づかずにラブ&ポップとかシンゴジラを観ちゃったな、まあいいや)
なにが「おめでとう」だバーカ。みんな死んで星になったってかイデオンかよ
……
コホン、
そんな感情豊かな私ですが、
卒業式はちっとも泣けませんでしたね。小、中。高校の全てにおいて
卒業式だから晴れ晴れした気持ちにはなります。だけど極まるような感情の昂ぶりはなかった
泣けないどころか泣いてる奴を見ると、なんとも言えない白々しい気持ちになる。ちなみに男子限定の話です。女子は卒業式に限らずなにかにつけ泣いてるので違和感はない
なぜ男子が泣くとモヤモヤするのか?
今日はその理由を偏見と思いつきで適当に語ってみようと思います
卒業式で泣く男
私が知る限り、卒業式で泣くのはクラスを牛耳るヤンキー一味、あとは野球部やサッカー部に所属する生徒に多かった
彼らはクラスのヒエラルキーでトップに位置する者たちです。所属する部活は違えど仲が良い
いわゆる陽キャラグループ
反対に12年間の学生生活で決して涙を見せないタイプもいました。それは、
オタクや地味系部活に所属する陰属性の者たちです。略して陰者
陽キャラは泣く奴もいれば泣かない奴もいる。しかし陰者は誰一人として泣かない。ゼロ。皆無
もちろん私も陰者です。テニス部に所属してましたが、バスケ、野球、サッカーほどの華やかさはありませんからね
当時流行った漫画にも如実にそれが現れてます
バスケは『スラムダンク』『DEAR BOYS』
野球といえば『H2』『MAJOR』
サッカーは『蒼き伝説 シュート!』
ヒット作ばかり
テニスはなにかあったかな?
……
ちばてつやの『少年よラケットを抱け』かな……
マガジンでやってたけどヒットはしませんでした
私が所属してた頃のテニス部はエロアイテムばかり部室に隠していたので女子から蛇蝎のごとく嫌われてました
なぜか我々の世代はスケベでお下劣な奴が多かったのです
隣は女子テニスの部室だったのですが、ある日男子部員みんなで協力してコンクリの壁にドリルで覗き穴を作ったらそれがすぐバレて顧問に殴られた後に親と一緒に校長へ謝りに行ったことがあります
部員の半分が母親同伴で校長先生に謝りました。どこの母ちゃんも「情けない……」とシクシク泣いてました
「泣かれると本当に酷いことをした気分になるからやめて欲しい」
と言い放った正直者の友達は親と顧問にダブルドラゴンで殴られてました。私は震え上りながら「コイツすごい度胸だな」と感動したのを覚えてます
っていうかよく考えたらなんで校長に謝ったんだろう?関係なくね。ああ、そっか壁に穴を開けたら修繕しないといけないもんな。でもその穴は10年後もそのままだったけどな。ボロ布を突っ込んでシリコンで塞いだ当時のまま。もちろんやったのは我々です
閑話休題
話が脱線しすぎたので戻します
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卒業式で泣く理由
ようするにですね、卒業式で泣くか泣かないかの境界線は学生生活をどれだけ楽しめたのか、それが大きいと思うのですよ。思い入れが深いほど感情が揺さぶられますからね
卒業式で泣きじゃくるヤンキーども。普段は傍若無人の限りを尽くし、我々を虐げ、それは自由奔放を満喫してましたからね
私もどれほど愛想笑いをして腰巾着になったか…。丸ごとバナナとから揚げ君をパシリに何度ローソンへ走ったか
しかも不良はモテるから余計に頭にくる
おまけに教師という人種はこういうヤンキーどもに妙な理解を示します
聞き分けの良い生徒よりも普段から反抗的な生徒に対してのほうが明らかに寛容です
問題児ほど可愛いのか積極的にコミュニケーションをとります。彼らが気安い反応、あるいは親しみを込めた態度を見せると「おい、口の利き方に気をつけろ」と叱りながらも満更でもない表情になる
私はポケベルを持ってただけで5発ビンタを食らって没収されたのに、クラスメートのヤンキーは『もう学校に持ってくるなよ』で済んだことがあります。ここまでくると差別ですよ
つまり教師は「この問題児と心を通わせることができるのは私だけよ」みたいな自己満足に浸ってるのです。スクールウォーズ症候群とでもいいましょうか
自分の学校にはそういう教師が多かった気がする。たぶん先生自身が元陰者なので陽キャラにコンプレックスがあるんだと思う。それを埋めるために積極的に仲良くなるのです
その結果ヤンキーにとって学校は非常に快適な環境となります。反対に我々にとっては過酷なデイアフタートゥモロ―
普段涙なんて絶対に見せないヤンキーどもが卒業式で泣く、それを見て教師が貰い泣き
この臭い感動シーンを演出するためには陰で多くの陰者が血を流し割りを食ってるわけですよ。私もその1人ね。だから泣いてる連中を見ると辟易します
「お前らさえいなきゃ俺が泣いてる立場だったのによ、ギギギ……」
聖帝十字陵をひーひー組み上げる奴隷の気持ちですね。南斗六聖拳の将聖が陽キャラ
ちくしょう、青春時代に一度くらいはサウザー様になってみたかったぜよ
退かぬ、媚びぬ、顧みぬ
まあなんだかんだで学校は楽しかったですけど
暴走族の解散式
ヤンキーが泣いてもモヤモヤしなかったパターンもあります
自分に一切関係ないヤンキーが泣いてる時です。被害を受けてないから腹も立ちません
20歳の頃に知人から暴走族の解散式に出るからその様子を撮影してくれと頼まれたことがあります
当時私は電器屋さんで撮影のバイトをしていました。学校のコンサートとかちょっとしたイベントをビデオカメラで撮影する仕事です。楽なのにそこそこ日給が良かった
そんなわけで簡単な撮影ならできます
暴走族の解散式なんて頭が悪そうで面白そうです。私は引き受けることにしました
翌週さっそく友人を助手にして会場へ向かいました
場所は隣の隣の町です。田舎の警察署の駐車場
会場には椅子などはなく警察官が3人と役場?の職員が3人いました。もちろん主役たちもいますよ。賑やかな髪型の少年が20人ほど。歳は16~22歳といった感じでしょうか
21歳のサブリーダ―?副総長?が撮影の依頼者です。私と友人が挨拶しようと近づくと他のメンバーから思いっきりメンチを切られました。おー怖い
彼らのバイクはお馴染みのカウルが空へ向かって伸びる変態仕様、三段シートは人が五人くらい座れそうなほど長い。配色は派手過ぎて正気を疑いたくなります
舐めてるんでしょうか。せめて原付で来いって話ですよ。解散する気があるのか甚だ疑問です
さっそく始まった解散式を私と友人はビデオカメラを抱えて撮影しました
私たち以外にも撮影してる人はいましたね。警察の関係者と町の情報を発信する役場のミニコミ紙を担当する職員です
進行役は警官が務めていたのですが、『解散式』という言葉を使わずに『安全運転発表会』と言ってました
中年の警官は「少年たちが社会に貢献してこの町に発展に云々ーー」と言った後に
「えーとそれではこれより……ミッキー…ローク……?」
「「「違います。ミッキーローグです」」」
真剣な顔で少年たちが首を振る。どうやらチーム名らしい
「……ミッキーローク?」
「「「ローグ!!」」」
「……わかった。ローグの解体をリーダーの迫田君より宣言してもらう」
ミッキーを端折っちゃった
私は笑いを堪えて震えてました。幻想鼠小僧と書いて『ミッキーローグ』と読むらしいよ
だいたい解散式ってもっとほんわかした雰囲気でするのかと思ってた。実際に警官たちは朗らかな笑顔で暴走少年たちを見守ってます。なのに当の少年たちは滅茶苦茶真剣な表情です。目に涙を溜めてる奴までいます
とてもじゃないけどプークスクスと笑える空気じゃありません
解散式はサクサク進みました
最後は焼却用のドラム缶で族の旗を燃やせば終わり
「よし、それじゃ旗も燃やすんだ」
「「「え!? そんな……」」」
警官に旗を燃やせと言われ絶句するメンバー。もちろんそういう段取りなのは前もって彼らも知ってます
なんかこういう小芝居がいちいち私の笑いのツボを刺激するんですよ。私、カメラを手で支えたままずっと下を向いてました。もうおかしくておかしくて
メンバーに見守られ、リーダーの迫田君が取り出したのは光沢のある大きめの旗。明るいブルーの生地に金文字で歴代リーダーの名前が刺繍されています
そこで友人が真顔で余計な報告をしてきました
「おいヤマグチ、結成して5年のチームなのに総長が30人もいるぞ……」
数えるんじゃないよ、そんなの
私は爆笑を我慢し過ぎて気が狂うかと思いました。ずっと自分の太ももやお腹を殴りつけたりつねってました。カメラを回しながらできるだけ旗を見ないように頑張ります。でもつい見ちゃう
何を理由にそれだけ総長が入れ替わったのか知りませんけど、最後の方はスペースが狭くなって名前が小さくなってるのがツボに嵌りました。
メンバーが20人しかいないのに総長が30人
旗が燃やされてメンバーのすすり泣きが聞こえるたびに笑いの爪がお腹の中を引っ掻き回すのです
もうコイツらがどんなリアクションをしてもおかしくてしょうがない
視界に入る全てが私を笑わせようとしてきます。少年の一人が着てたTシャツはプーマだと思ってたのによく見たら動物の頭がチリチリになっててロゴが『パーマ』になってました。普段なら絶対に笑わないベタでも吹き出しそうになる
イカれたシルエットのバイクに混じってママチャリが一台だけポツンと止めてあるのに気づいたらもうダメ
気づいたら私も涎を垂らして泣いてました。のたうち回る笑気を涙に変えて、泣きながら笑ってました
心配した役場の人が近寄ってきたので、私は「違うんです。つまずいて足を挫いただけです。痛くてちょっと苦しいの……」
と悶えながら泣き続けたのでした
おわり