昨日の仕事中、お客さんをしごいているとドアをコンコンとノックする音が
「すみません……」
遠慮がちに小さく開いたドアから顔を覗かせたのは金髪の娘です
今どきパツキンのヤンキーとか珍しいな、と思ったら本物の外国人でした
顔の作りが小さくて華奢な女の子です。欧州系の顔です。薄いピンクのショートパンツにシックな色のタイツをはいてました。なんかすげえお洒落
秋の装いもステキなパリジェンヌって感じ
つい私はまじまじと見てしまいました
近所で見かける外国人といえばサンダルでペタペタ闊歩するフィリピン娘とかガニ股チャイニーズとかインド人ばかりだったのです。天然物のパッキン娘は珍しい。しかも可愛いとなるとなお希少
「ここ、ジムですよね。いくらですか?」
彼女は料金やコース内容を知りたかったらしい。へえ日本語上手いな
私が仏陀のように優しく説明してあげると、お人形さんみたいな顔から緊張が解けて表情が華やぐ。どうやら私に惚れすぎて昇天したようですね
「ありがとう、またね!」
説明を聞き終えると彼女はニコニコと去っていきました
私はドアが閉まり切るまでうへへと笑顔で手を振ってました
可愛い子は時間を忘れさせてくれます。接客中のお客さんがいたことをすっかり忘れてましたよ
ふふふ、「またね」が社交辞令でないことを祈りましょう
【see you】とは
昨日の海外女子は日本語が達者だったのでコミュニケーションは問題ありませんでした。彼女の発した「またね」は日本語です
で、本題です
私は「またね」は英語でsee youだと思ってます。この言葉は誰かに別れを告げる時に使うものだと思ってます
しかし
私はある外国人と交わした会話から本当に“see you”が正しいのか疑問を持つようになってまったのです
「気になるならさっさと調べろよ」と突っ込まれそうですが、どうでもいいっちゃどうでもいいので放置してました
その外国人との経緯を説明します。その後に“see you”について考えてみようと思います
ちなみに私の英語レベルはたまごクラブ程度だと思ってください
別れの言葉はなんと言う?
昔のことです。マレーシアのボロ宿に泊まっていました。部屋はドミトリー
ドミトリーとは一つの部屋にベッドをいくつも置いただけのタコ部屋みたいな部屋のこと
衝立の類はありません。プライバシーもへったくれもない。当然貴重品を盗まれるリスクがあります。というか程度の低い宿だとマジで強盗に遭います。だから客は枕の下に武器を隠して金目の物は身体に巻きつけたり手錠で繋いで抱きしめて寝るのです
その分宿泊代がとても安いのですが
私はチェックアウトするためにベッドで荷物をまとめていました
タオルとか煙草とか適当にバックパックに放り込みながらちょっと悩んでました
滞在していたのは2日間。宿泊客は目まぐるしく入れ替わるので特に仲良くなった奴はいません。隣のベッドのアイルランド人と軽く挨拶を交わしただけ
そのアイルランド人は現在ベッドで読書中。他の客は出払っていません。つまり2人っきり
私はウムムと考え込んでいました
なぜかというと
こういう時ってさ、やっぱりこの男に何か別れの挨拶をすべきだろうか? 黙って出るのもなんか感じ悪くね? いや、他の客は黙って出て行ってるからそれでも構わんのだろうけど。でもやはり日本男児として礼儀は大事だと思う
まあ礼儀云々というよりも黙って出て行くのはなんか気まずいわけですよ。2人しかいないし。誰かいればどさくさに紛れて出て行ったと思う
何か適当に別れの挨拶を言えればいいんだけど生憎私は英語がほとんど喋れない。まだスマホなんて普及してない時代です
こんな時は何と言うんだろう?
どうしようどうしようと困っていたので荷物をまとめる作業もできるだけダラダラとやって時間稼ぎをしてました
しかし所持品なんて少ないのでとうとう全部入れ終わってしまう
部屋の中はしんと静まり返ってます。男がページを捲る音がパラパラと聞こえるだけ
私はバックパックを掴んだまま身動きできないでいました
寝そべって読書していたアイルランド人がチラッと私を見てまた本に目をおとす
くっ、どうする? チラっと見やがったぞコイツ。俺を意識しやがったな。これでいよいよ黙って出るのが不自然な感じになったじゃないか
やはり何か言うしかない、英語で挨拶……
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私は猛烈に頭脳を回転させて過去に観た映画や音楽、その他諸々から別れの言葉っぽいセリフを思い出そうとしました
別れる時に言うセリフ……別れる時に言う……
さっと頭に浮かんだのは
I’ll be back(アイルビーバック)
I shall return(アイシャルリターン)
Your fire(ユアファイアー)
アイルビーバックはターミネーター2のシュワちゃんがファーロング少年に言った台詞です。初期の作品でも言ってたらしいけど昔すぎて覚えてない。
アイシャルリターンは日本軍にフィリピンから追い出されたマッカーサーの捨て台詞
どちらも別れ際のセリフだけど私が使うにはいささか微妙な気がする
backとかreturnは『戻ってくる』という意味だよね。それくらい馬鹿な自分でもわかるぞ
私とアイルランド人は恐らくもう会うことはないので『戻る』という表現はおかしい
ユアファイアーは別れとは全然関係ないです。当時はバックストリートボーイズがヒットしてた頃なのですが、彼らの有名な曲にこのフレーズがあって「へえ、『ユアファイアー』で『君は僕の情熱』と訳すんだ。英語っておもしれー」と感動したので覚えてました
つまり私が目の前の男に絶対に使ってはいけない英語です
「……」
ぐるぐると色々考えていたけど適当な台詞が思いつかない
室内の沈黙が重苦しく感じられました
まあ勝手に私がプレッシャーを感じてるだけですけど
だんだんと考えるのが面倒臭くなってきたのでアイルビーバックと言うことにしました。相手は英語が母国語のアイルランド人。私の英語が多少違っても言わんとすることは察してくれるでしょう
アイシャルリターンはマッカーサーだけになんか偉そうなので却下しました
「よっこらせっ」
わざとらしく声を出してバックパックを背負う私、それに気づいたアイルランド人がこっちをふいと見る
私は彼を見ると意を決して、
「あい……」
不意にドアの向こうからガヤガヤと声が聞こえました。すごく賑やかです
「「「oh…キャッキャ」」」
どうやら宿泊客が廊下で騒いでるらしい。男女の明るい声が聞こえます
この宿には部屋が沢山あるのでどこかのドアがバンバン開いたり閉じたりする音が聞こえます、それと同時に
「シーユー!」
恐らく欧米人でしょう、なんか流暢な英語っぽい感じでそう言ってるのが聞こえました
ドアの向こうは見えないけどなんとなく別れ際に言い放ってるような雰囲気がある
私はそれを聞いて本能的に「これだ!」と確信する
シーユー、『see you』。これこそ俺が求めた答え
seeは『見る』とか『会う』という意味。つまり「またあなたと会いたいわ」、もっとフランクに訳すと「また合いましょう」
ハリウッド 映画でもそう言って別れるシーンを見たことあるぞ
間違いない!
「……」
アイルランド人が私をじっと見てます
おっと、いかんいかん待たせちまったな
コホン
気を取り直した私はアイルランド人を見つめ返すと軽く手を上げて
「シーユー」
するとアイルランド人はすかさず
「……メイビー」
え!?
「「……」」
なんか2人の間に微妙な空気が流れました
メイビーって何?
アイルランドはなんか怪訝な顔をしてる。つまり何かが間違ってる? もしかして俺?
「……」
見つめ合う二人。気のせいかアイルランド人の視線が冷たい。
なんですかコレ。なんか渾身のギャグが滑った感じになってますよ。俺悪くないよね
と、とりあえず私は何事もなかったかのように彼に背を向けて歩き出しました。奴の視線が背中に刺さっているのが嫌でも実感できる、空気が重い。気を抜くと囚われそう
メイビー?
メイビーってなにさ
たぶんmaydeのことだよね。それだったら漫画で読んだことあるぞ
『たぶん』とか『そうかも知れない』って意味だよね
いやいやそれおかしくね。たしかにシーユーは「またね」って意味だけど。それを真に受けて『たぶん』とか言っちゃうわけ?
そりゃ確かにもう会わない可能性が高いけど、そこを真面目に突っ込むの? お前、もしかして英語ができない日本人?
俺が間違ってるの? それともアイツが融通が利かないだけ。でもアイルランドって英語の国だろ、ってことは俺が間違ってるの?
以上、そんな出来事があったのでした
ネットで調べてみたよ
「See you~」にはすべてこれで返答!最強のフレーズ○○ | Webで英語
うん、私が間違ってました。すみません
see youは正確には I'll see youを略したものでした
未来形なことからもわかる通り、再び会うことが前提の言葉です
しかも非常に軽い印象があるらしい。日本語に例えるならタメ口
だからアイルランド人はちょっと冷たい様子だったのか……
旅の途中で出会った人へ別れを告げる時の挨拶は
see you again sametime
もう二度と会わないであろう相手に使うそうです
反対に相手からsee you~と挨拶をされた時はまんまオウム返しに同じことを言えばいい。あるいはsee you thenと言っとけばOK
あのアイルランド人はどういうつもりでメイビーと言ったんでしょうね
冷静になって考えると突っ込みというか「そうだな(そうかもな)」程度の軽い返しだったのかも
ここでふと思い出しました
よく考えたら我々日本人にとって馴染み深い別れの挨拶が英語にはありましたね
good bye(グッバイ)
これを使えばよかったよ……なんで思いつかなかったんだろう
調べてみたら次に会うことが決まってない時に使ってもいい言葉らしい
グッバイについて調べていたら興味深いことがわかりました
good byeは
God be with ye(神が汝とともにあるように)を短縮した表現でした。由来は厳かな言葉からだったのね
godからgoodだとOが1つ多い。これは神様の名前を直接口にするのが恐れ多かったからという説と、good morningやgood nightに寄せたという説があります
いやー今回はちょっと勉強になりました。自分的に
以上、ちょっと真面目な?英語記事でした!