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モテない男の特徴を3つ考えてみた。これをアピールすれば誰でもモテない男になれる!役に立たない恋愛講座③ - ダメラボ
夜、お店を閉めて帰ろうとしていたら、近づいて来る人影。げ、デカい犬もいる
「こんばんは店長」
常連のAさんでした。なんだ、暗くて気づかんかったよ
連れている犬はキツネ色の秋田犬です。前に見た時は子犬だったけど、一気にでかくなったな
「こんばんはAさん。夜の散歩ですか」
Aさんは夏なのに厚着して汗びっしょりです
「はい、ダイエットを兼ねて……」
「ハッ、ハッ、ハッ」
秋田犬は太郎です。私のことを覚えているのかつぶらな瞳で見つめてる
「おお、太郎。でかくなったなあ。おーよしよし」
まだ生後半年くらいなのにすでに中型犬サイズ。でも顔はあどけなく、体毛はモフモフして艶々
ちなみに私は撫で撫でしようとしたのですが、太郎は私をスルーして歩き去りました
「……あの店長、リリーだから。この子の名前はリリー、雌だからね」
「そうでしたっけ、リリー、リリーちゃんこっちにおいで」
リリーは呼んでもガン無視ですよ。照れ屋さんかな、まあいいけど
「そうそう、ちょうどよかった。店長に見せたいものが」
Aさんはデュフフとお世辞にも綺麗とはいえない笑顔でスマホを取り出しました
そして何やら操作すると画面を私に向けました
画面に写っていたのは食事をしている女性の姿。若いな、色白で栗色の髪を肩先まで伸ばした女子、まだ20代前半に見えます。それにクソ可愛いぞ。タレントか?モデル? 場所はどこかの高級レストランっぽい
「……? 誰ですかこの人、芸能人? なんか見たことあるようなないような……」
「やだなあ、玲奈さんですよ、玲奈さん。あの玲奈さんですよ」
気持ちの悪い含み笑いを浮かべるAさん
レナ? Maxのメンバーにいたなそんな人が
ちょっと記憶を探る私
「……玲奈さん? 玲奈……! え、えっ!?」
うお、ようやく思い出したぞ
「嘘!! マジっすか! じゃあこれはデートの写真?」
「ふふふ、デートというか、まあ食事会ってとこかな。でも2人きりで食事ですよ。先週行ってきたんですよ〇〇通りの〇〇に」
びっくりですよ。
この玲奈という小娘はAさんが片想いしている相手です。どこぞのカフェの店員、違った、ヨーロッパのオーガニックコスメを扱ってるショップの店員だ。お高い店ですよ
私は以前にAさんから恋愛相談を受けたことがあったのでした
「マジか……」
しかし、絶対相手にされないと思ってたのに……、2人で食事に行けたのか。そんな馬鹿な
「店長のアドバイス通り私の年収を教えたら上手くいきました」
「そうですか……そりゃ良かったです」
「ありがとう。近いうちにお店に行くからその時に詳しい話はしますから。それじゃ。行くよリリー」
ニッコニコでリリーを連れて去ってしまいました
Aさん。あれほど医者の肩書きと年収を利用するのは嫌だと言ってたのに、上手くいったんですっかり舞い上がってる
無理もないか……超絶綺麗だもんねあの娘
私はAさんが『肩書き』を利用しても失敗すると思ってたぐらいですから
おっさんの恋愛トークは面倒臭い
1か月前
「店長、前に話した若い女性のこと覚えてます? ほら〇〇の店員の玲奈さん」
「ええ、覚えてますよ。Aさんが贈り物を買いに行った時に対応してくれた人でしょ。滅茶綺麗な娘でAさんのお気に入りの……」
トレーニングが終わるといつになく改まった口調のAさん。何やら相談に乗って欲しいオーラを出してますよ
話の流れから恋バナなのは明らかです
Aさんは私より5つ上の45歳、独身のドクターです。精神科のクリニックを開いてます。たぶん童貞です
「実は……」
口を開いて口ごもるAさん。
そもそも私のような恋愛弱者に相談するとは彼の観察眼は曇り過ぎでしょう
私はお菓子の差し入れをくれた女性客には漏れなく
この人俺に惚れてるのかな
と考えるタイプです
先日なんてコンビニのプリンやケーキをなんとロックアイスまで買って冷やして持って来てくれた女子がいました
プロポーズを真剣に考えましたよ。わたしと老犬を養ってくださいって
Aさんの話に戻ります
「玲奈さんを食事に誘いたくて……」
「おお、いいじゃないですか。行っちゃいなよ」
Aさんは以前、クリニックのスタッフに渡す誕生日プレゼントを買いに件の店を訪れたのでした。そこで出会ったのが玲奈さん。彼女はAさんの相談に乗ってくれました
玲奈さんの可愛さにメロったAさんは、それからも折に触れては店を訪れます
店には男性用のコスメや雑貨も置いてるので必要もないのにそれらを買っては玲奈さんとの会話を楽しんでいたのでした
「実は……もう誘ったんですよ。手紙で」
「手紙? そりゃまた古風な方法を使いましたね」
スマホもあるこのご時世に手紙とは、もちろんAさんはスマホを持ってます
どうやら彼は仕事中の彼女に手紙を直接渡したらしい
Aさんが手紙で食事に誘った理由は、仕事中の彼女を邪魔するのが失礼だと考えたからです。手紙ならさっと渡せば済みますからね
これに関しては納得です
しかしAさんから手紙の内容を聞いた私は衝撃を受けました
Aさん曰く、手紙には自分の空いてる日程を20日分ほど書き込んだらしい
そして、玲奈さんはどの日が都合が良いですか?この中から選んでください。1時間後にもう一度お店に顔を出すのでそれまでに決めてください
と書いて彼女に渡しました
そう、Aさんは悪い人ではありませんが、ちょっと独特な思考の持ち主なのです
Aさんは1時間ほど時間を潰して再びお店を訪れました
仕事中の玲奈さんを見つけて近寄ると、彼女は黙って小さなメモ用紙を渡してきたそうです
そのメモ用紙には
『すみません。私には付き合っている人がいるので食事には行けません』
と書かれていたという
「……」
ショックで声を失うAさん
私にどうすればいいんだと泣きついてきた訳です
いやいや、それもう結果でてるじゃんね
男は黙って引き下がろ、ね
「私の何が悪かったのか……」
ぼんやりと黄昏るAさんです。どうしようツッコミ所が多すぎて困ってしまう
私は黙っているのも何だったので言いました
「ちなみにどうして手紙で1時間後に答えを求めたのですか? 例えばAさんのラインかメールアドレスを彼女に教えて返事をもらうという形でもよかったのでは? そうすれば彼女もゆっくりと考える時間があったでしょうに……」
ゆっくり考えても答えが変わったとは思えんけど
「え? そりゃもちろん――」
Aさんとしては何日もかけてやり取りをするのは時間の無駄と考えたらしい
だから彼女が「その日は予定が合わない」と言わずに済むように、あらかじめ自分の空いてる日を20日分も書き込んだ。先の予定を20日分も提案しとけば流石に彼女も都合をつけられるだろう、と思ったそうです
何が凄いってこの人、最初から断られると思っていないところですよ。食事に行くこと前提で話を進めてる。やだ怖い
念のためにAさんと玲奈さんの関係を確認したら、初めて会った時から週一で30秒ほど言葉を交わす間がらでしかなかったそうです、会った回数は今までにトータルで4回
うーん、それであの超自己中な手紙か。私が受け取ったら異常者と断じて震えてるかも
いずれにせよ彼女のAさんに対する印象は悪化したと思う
ちなみにAさんはカエル顔の小太りで短足です。ちゃんと身体を洗わないので膝下は垢で黒ずんでます
髪もフケが凄いです
下着はユニクロ、買い替えずにいつまでも同じものを穿いてます。そのせいで洗っても汗とアンモニアの匂いが染みついてるのか常に異臭を放ってます
お金をケチってるわけじゃなく無頓着なのです
うな垂れていたAさんが顔を上げます
「店長、私の何が悪かったのか教えてくれないか」
え、全部
たぶんこれまでのAさんの振舞を読んだ人は『精神科医なのになんでこんなに空気が読めないの』と驚くかもしれません
フォローするわけじゃありませんが、Aさんは滅茶苦茶頭が良いです。回転も速い。DQN高校出身の私とは比べものにならんですよ。私が10倍界王拳を使っても負けます
医者に必要な資質は患者さんの話を聞いて的確に診断を下し、処方箋を書くこと。その能力をAさんは十分に満たしていると思う
医者は相手の腹を探る必要はないのです。患者の言ってることが嘘かどうかをはかるのは彼らの仕事じゃありません
と考える医者もいます。Aさんはまさにそのタイプ。見た目によらずそのへんはクールです
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どこが悪いのか聞かれて本当のことが言えるわけない
すでに振られたわけですからどうしようもありません。何をしようと敗戦処理ですよ
Aさんと玲奈さんは22も離れてます
私は近くに用事があった時に玲奈さんの働くお店を覗きに行ったことがあります。Aさんの美的センスを確かめようと思って
彼は身の程知らずだと思いました
私は見目麗しい女性には2タイプいる考えています
- 元はイマイチでも努力とメイクで掴んだ美しさ。雑草魂の上原タイプ
- 血に恵まれて最初から整った顔、周囲の羨望を糧に己を磨きあげた根っからのアイドルタイプ
外見に限って言うなら雑草魂はどれだけ頑張ってもアイドルには敵いません
玲奈さんは明らかに後者でした。なんかオーラが違うし。目線や仕草はモテることに慣れてる人のそれです、自分の魅力を過不足なく把握してます。男への媚び方を知ってます。振舞がいちいち可愛いなオイ
学校に例えると、クラスのヒエラルキーにおいて圧倒的なトップに君臨するタイプの女子です
気づくと私は4000円もするオーガニックなシャンプーを買っていました。これを購入することで後進国の支援にもなるそうです。玲奈ちゃんが教えてくれました♡
不潔で短足なAさんではとても太刀打ちできる相手じゃないと思う
しかもAさんは玲奈さんに自分が医者だとは表明していませんでした。付き合うまで言わないつもりらしい
ありのままの自分を好きになって欲しいからだそうです
どこまで相手に甘えれば気が済むんでしょうかね。この人。客でなければぶっ飛ばしてますよ
「店長、忌憚のない意見を言ってくれ」
困りました。とりあえず風呂にちゃんと入って欲しいですね。清潔でいることは恋愛云々以前に社会人として最低限の嗜みです
しかし一応接客業の端くれ、そんなことをはっきり言う訳にはいきません
とか思ってましたけど結局
「風呂に入って身体と髪をしっかり洗いましょう。その足の垢もちゃんと磨いて除去してください。臭いと女子に嫌われますからね」
と言う羽目になりました
だってせっかく遠回しに言ってるのに、この人「どうして?」っていちいち理由を聞いてくるから面倒くさくなったのです
パンツも3か月に一回は買い替えてくださいと言いました。まさか洗ってないということはありませんよね、と聞いたら流石にそれはないと言われました
なんか俺オカンみたいになってるよ
髪もどこで切ってるのか知りませんがツーブロックが深すぎて坊ちゃん刈りに見えたのでトップとサイド全体を短くするように勧めました。そのほうが清潔感がありますからね
服はユニクロでもなんでもいいから常に清潔に。あとその裾口の無意味に広い裸の大将が穿いてそうな短パンは穿いちゃいけません。ダメ、絶対
最後のアドバイス
一通りの提言が終わるとAさんは
「わかったよ。店長のアドバイスを全部実行すればもう一度チャンスがあるかな?」
「え、まだ諦めてないんですか」
困りましたね。それは無理だと言った方がいいのかな。だいたい玲奈ちゃんって彼氏がいるんだよね
しかし、私もサービスマンの端くれ。顧客の満足度を高める努力は可能な限りすべきでしょうね
「わかりました。一発逆転とはならないかもしれませんがもう一つアドバイスを」
私は医者であることを話すべきだと言いました。専門が精神科ということも。人によっては食いつくネタです。そして嫌味じゃない感じで年収もさらっと伝える
正直、Aさんはこういう人なので上手くいくとは期待してません。年収を話すなんて悪趣味だと受け取られる可能性もある
でもどうせ何をやってもこれ以上評価が下がるとは思えない。だったらやってみたら
「えっ……それは……」
Aさんは渋りました。まだ夢見がちなおっさんなのです。お金の魅力でなびかせても無意味だと考えていますよ
私はハッキリと伝えました
今のAさんはマンモス相手に無手のフルチンで特攻してるに等しいと
ぶっちゃけお金を使っても状況をひっくり返すのは怪しいくらいだと
そう、なぜか私は熱く語っていました。好きなのですスポ根ものが
40を過ぎると一人でいることに慣れてしまい、自分のペースが確立してしまいます。女性にモテたいという思いは持っているのですが、その為に何かを変えることは面倒臭いというかプライドが邪魔をしてしまう
そのせいで行動できない男子がどれほど多いことか
女性の前でも自分のペースを崩せない(崩さない)ので振られてしまう
Aさんはムムムを口をへの字にして俯く
「そ、そんな事を言っても私は店長のようにイケメンじゃないし、スタイルも良くない……」
「Aさん……ついでに私は顔も小さいですよ」
というやり取りは嘘ですけど、Aさんはなんか知らんけどやる気をだして納得してくれました
そして話は最初に戻る訳です
とりあえず食事に行くことはできたらしい
おめでとうAさん!
ちなみに私は玲奈ちゃんがお金になびいたとか野暮を言うつもりはありません
彼氏のいる超絶美人を金と肩書でデートまで誘えた。Aさんの執念を褒めるべきでしょう
世の中、ドラマや漫画みたいに誰もがお金になびく訳じゃありませんからね
これからどうなるかはAさん次第
ちなみにわたしはなびきます
おしまい