昨日、アルバムを見てました
アルバムといってもカメラ屋さんで現像を依頼した時におまけでもらったペラペラのやつ
12ページのアルバムには私がインドシナ半島をぶらぶらしていた時の思い出が詰まっています。今から17年ほど前の話です。写真の枚数は24枚、半年以上旅行していたのにたったこれだけ
どうしてこんなに写真が少ないんだけっけ?
……ああ、そうだった
思い出しました
当時デジカメもスマホも持ってなくて、バンコクのカオサンでインスタントカメラを買ったんですよね。だけど貧乏旅行だったのでお金をケチって買ったのは1つだけ
私は24枚しか撮影できないインスタントカメラに旅の記録を収めることにしたのです
とはいえ目的地のない1人旅。いざ何かを写そうとすると
ちょっと待て、この先もっと良い被写体が出会えるかも。カメラは24枚しか写せないんだぞ
と考えてしまい、シャッターを切るのを躊躇してしまう
そんなことばかりしてたので、帰国する前になってもカメラは10枚ほど余力を残したまま
あばば、せっかくの長期旅行だったのに!
慌てた私は適当にシャッターを切りまくりました
おかげでアルバムの最後のほうは、その辺を歩いていた野良犬の写真ばかりです。切なげな顔した野良犬がウンコしてる姿も
なんで私は野良犬にこだわっていたのかな
カメラはただの画像記憶媒体じゃない
そんなアルバムをパラパラと見ていると
汚れた顔の子供が写っている写真を見つけました。ボロを着た10才くらいの少年です
誰だっけ?
少年は皿に盛られた焼き魚を見て、引きつった顔をしてます。右手には透明なビニール袋を持ったまま
あっ、思い出した。たしかカンボジアの屋台で会った子だ
川沿いにあったボロい屋台で一緒に飯を食べた時の写真でした。
その川がメチャクチャ汚くてですね、もしかしたら川じゃなくてドブかも。ゴミが沢山浮いて黒いヘドロだらけだったし
屋台は客が選んだ食材を調理してくれるシステムでした。調理といっても焼くだけですけど
食材は屋台の後ろに並べられています。どれもドブでとれたての新鮮なものばかり。よくわからない魚に混じって真っ黒なナマコまでいますよ。まだ生きてるのかウネウネ蠢いてる
ナマコって海産だと思ってましたがドブにもいるんですね。しかもドブそっくりで黒い、不吉なくらいの漆黒です
あまり美味しいそうではありませんが、食材として並べている以上食用には違いないはず。好奇心には勝てなくて食べてみることにしました
私が屋台のおばさんに注文しようとすると、
「ヘロ~ミスタ~~」
と声が
振り向くとビニール袋を持った少年が近寄ってきました
服は汚れてボロボロ。声は妙に甲高くて舌足らず
浮浪児でした。この辺では珍しくありません。
ビニール袋に入ってるのはシンナーです。空腹を紛らわすために浮浪児がシンナーを吸引してるのはよく見かける風景でした。喋りがおぼつかないのはそのせい
「ワンダラ~~プリーズ」
ぼんやりした顔でお金をせがむ少年。
私は「お金はやれないけど、飯を一緒に食わないか?」と誘いました
ナマコは大きくて二人で食べても十分な量があったので
「……」
ちょっと間がありましたが、少年はぼうっとした顔のまま私の横に座りました
うっ、シンナー臭い
屋台のおばちゃんは感じの良さそうな人でニコニコと私たちを見ています
おっといけない。早く注文しないと
私が闇ナマコを指さすと、おばちゃんは指で丸を作って了解という合図。鼻歌を口ずさみながら素材へ近づく
ガタッ
不意に少年が勢いよく立ち上がりました。椅子が倒れる勢いで
彼は私とナマコを交互に見て驚いた顔
えっ、あれを食うの!? マジ?
って感じです。さっきまでラリってた癖に目がヤバイくらいにシリアス
姿勢がシャキッとして険しい顔は野生の獣、どう見ても普通じゃない
私は彼の豹変ぶりが恐ろしくなって
「え!? なに、なんで? もしかしてあれヤバイやつなの?」
と怯えて日本語を捲くし立て、
「ちょっと! 黙ってないで早く教えてよ。こら、やめてよそのマジっぽい顔」
去ろうとする少年の腕を引っ張る
「ラ@?>,l????\」
少年は迷惑顔で何か言ってるけど意味はさっぱり
でもね、すぐに半分だけ彼の動揺が理解できましたよ
だっておばちゃんがナマコを掴んだ瞬間、ナマコの形が変わりましたから
ブワンって、音を立てて
私が注文したのはナマコじゃありませんでした
大量の蝿が纏わりついていたナマズ? 髭が平べったくて口が尖っているのでナマズじゃないかも。動いているように見えたのは蝿が集っていたせい。蝿が去ってもナマズ?の表面には細長い虫が沢山くっついてる
おばちゃん、なんでもないように虫を払うとすげえ良い笑顔で料理を開始
焼いてるだけだけど
「@;++LKMウエル!」
料理の間、彼女は色々と話しかけてくれましたよ。よくわからないけど歓迎されてるのはわかります
その笑顔が優しすぎてキャンセルする度胸が湧きません
震える声でファイヤーと言うのが精一杯
アホなんでしっかり焼いてくれと英語で言えません。だからファイヤーファイヤーと連呼して途中からドントレアと言いました
おばちゃん、「オーケー」とか言ってますけど多分わかってない
私が少年に助けを求めると
「……ファイブダラー」
彼はしぶしぶそう言いました。要するに5ドルくれれば食事に付き合ってやるというわけです
この子賢い。私があの奇怪な生物をどうしても食べなければならない窮地を本能的に察したらしい。でもおばちゃんにキャンセルするとは言ってくれない。チッ、したたかな奴
私は「5ドル払うから君が絶対に半分食べるんだぞ」と念を押しました。日本語で。たぶんニュアンスは通じたはず。金を渡すと「イエス」と返事したから。その時だけ笑顔
アルバムに載っていた写真は料理を前にした時の少年の姿です。なんとなく撮影しちゃいました
めっちゃ渋い顔してますよ
ちなみに少年はこのあと逃げます。一口食べただけで
おかげで1人で実食するはめに
ナマズ(仮)料理は皮が硬すぎて食べられたものじゃありませんでした。
四苦八苦してるとおばちゃんが手で皮を剥いでくれました。どうやら中身だけ食べるものらしい
甲斐甲斐しく世話を焼いて、椀こ蕎麦みたいに次々と肉を提供してくれるので断ることが出来ない。
ついに完食
味は意外にも普通の白身っぽかったです。生焼けでしたけど
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こんな風に色々思い出せるから写真は大事
たった1枚の写真を見ているだけで、これだけの記憶を思い出すことができました
写真には少年が写ってるだけ。それなのに近くのドブやおばちゃんの笑顔、村の風景まで記憶が蘇ってきます
写真は被写体を記録に残すだけじゃなく、フレームからはみ出た思い出まで記録してくれるんですね
アルバムを見ていてそれに気づかされました
今はデジカメにいくらでも画像データを保存できます。でも闇雲に撮影せず、ちょっとだけ気持ちを乗せてシャッターを切ると、良い感じのアルバムが完成するんじゃないでしょうか
いつか見返す気になる素敵なアルバムが
ちなみにカンボジアの通貨はドルじゃなくてリエルです。でも当時は米ドルが信用されてたので、ドルをせがまれることが多かったのでした
おわり