今回は群集心理について書いてみます
なぜ群集心理なのかというと、最近の香港デモのニュースを見ていて昔のことを思い出したからです
まずは簡単に群集心理について説明します
群集心理(集団心理)とは
群集心理とは群集状況のもとで醸成される特有の心理状態のこと
もっと簡単に説明すると、
複数の人間がなんらかの異常な状態に置かれたことで皆ハイテンションでヤッピーでパーリーな心境になることです。別名イケイケどんどん
ギュスターヴ・ル・ボン
この分野で有名なのはル・ボンさんです
文字がちょっと違うけど『群衆心理』という言葉を最初に使ったのはフランスの心理学者、ギュスターヴ・ル・ボン。1895年に発表した『群衆心理』は心理学者の間で高い評価を得ています
フランスは革命の後に血の嵐が吹き荒れ滅茶苦茶になりました。歴史的に群衆心理を学ぶ良い下地があったということなのかもしれません
ちなみに『群衆心理』はヒトラーの愛読書としても有名です
私は大学のゼミでこの本を知りました。読んだけど内容はさっぱり覚えてませんね
ル・ボンはこの著書の中で産業革命以後の社会現象と群衆心理の深い関係を論じています
前進するためには行動するだけでは十分ではない
まずどの方向に行動すべきか理解している必要がある
香港民主化デモ
今年の3月から始まった香港の民主化デモ。最初は逃亡犯条例改正案に反対するデモだったのですが、大規模な反政府デモに発展。
現在も続いており連日ニュースで取り上げられています。
私がニュースを見た時はデモによる破壊行為を伝えていました。襲われているのは親中派の店です
どさくさに紛れて無関係の店舗も略奪被害に遭っています。無関係の一般人が巻き込まれて怪我人も出ている
熱に浮かされた一部の人間が暴徒化しているのです
もちろん全てがデモ参加者の仕業ではないでしょう。ゴロツキや盗人も混じっていると思う
また警察側も訓練された治安組織とは思えないほどの傍若無人ぶりを発揮してます
世界中のマスコミが注視してるにも関わらず癇癪を起した子供みたいにデモ参加者を袋叩き。さらには実弾を使う緊急性もないだろうにデモ参加者に向けて発砲、重体者まで出してる
なぜ通常ではない状況に置かれると人間はこうも馬鹿をやらかすのか?
私はデモの映像を見ていると思い当たる節がありすぎて胸が痛くなりました
そう、自分にも経験があるからです
ビバ群集心理
過去に体験した苦い思い出を解説してみようと思います
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カンボジアの大暴動
2003年1月。タイの女優が「アンコールワットはタイのもの」と発言したとの報道(後に誤報と判明)をきっかけに、カンボジア国内では大規模な暴動が勃発しました
怒った群衆によってタイ大使館、タイ資本の会社などが焼き討ちされたのです
アンコールワットはカンボジアのシンボルですからね、流石にカンボジア人も激おこプンプン。おまけにタイとカンボジアの経済格差による嫉妬も怒りのスパイスになったといわれています
その時の私はたまたまカンボジアの首都プノンペンにいました
外がなにやら騒がしいな
私は好奇心に駆られてチャリンコをキコキコ漕いで様子を見に行ったのです
ぽかんとアホ面でデパートが燃えるのを見てました。
その近くでは火炎瓶が投げ込まれて大使館の壁が炎に包まれている。商店では破壊や略奪も起きてました
後日撮影したタイ大使館です。わかりにくいかもしれませんが入り口や壁が破壊されて青い板で応急処置がなされています。壁は落書きだらけですね。黒っぽいのは焦げ跡です
暴動を見たのは生まれて初めての経験でした
人で溢れかえる大通り。騒然とした空気、パンパン銃声が聞こえる。悲鳴や怒号。こんな時でも普通に営業してる屋台では肉の焼ける匂い、暴徒は怒った顔もいれば笑ってる奴もいて、熱に浮かされたようにヒステリー状態。人ごみに揉みくちゃにされ、たちこめる色んな人間の汗が臭う
大きな流れに身を任せていると自分まで暴動の一部になった気がして鼓動が高まるのです
軍?警察の黒っぽい格好をした連中が大声で何か叫んでる
何かとんでもないことが起きてる……
この時の私は暴動がなぜ起きているのか知りませんでした。しかしタイの大使館が襲われているのです。ただごとじゃないのはわかります
これって戦争になるんじゃ……
ただでさえ外国に来て気持ちが浮き足立っているのに、目の前の状況が現実とは思えなくて、だけど生生しい騒ぎは五感を刺激して確かにその場にいることを実感させる
えらいこっちゃ……
震える声でそう呟いてもなぜか気持ちはワクワクしてました。身体から熱が抜けない
「と、とりあえず宿に戻ろう」
国境が閉鎖されたらしい
宿に戻ると私は暴動の様子を宿泊客に自慢して語りました。まるで自分の武勇伝を語るように
「……ポウッ」
「へ……え、すごい……」
「…ソー、グッド」
みんな笑顔です。でも色んな薬物でラリっているのでちっとも人の話を聞いてない。無礼ですよ
ここはボロい安宿
外人どもは何かにつけて薬物パーティーを開催してました。満月ならフルムーンパーティ、半月ならハーフムーンパーティとか記念日好きの女子みたいな連中です
私は煙草とビールの方が好きです
そもそもドラッグなんぞの力を借りなくてもナチュラルでハイになれます。今だって自慢話は全部日本語ですよ。外人相手に何やってんだって話ですよ
数日後
ロビーでだらだらしてると、誰かが「タイとカンボジアの国境が封鎖されたらしいぞ!」と騒ぐ声が聞こえました
周囲は騒然となります。もちろん私も
どうやらタイは大使館を襲われたことに怒って軍を国境に展開したらしい、カンボジア側も負けじと陸軍を国境に集めてるとか。プノンペン在住のタイ人は軍用飛行機で避難したという噂まで聞こえてくる
すわ、戦争か!? えらいこっちゃ……
あくまで噂です。情報が錯綜してはっきりしない
我々は情報を収集することにしました
やって来たのは日本大使館
大使館には私以外にも多くの日本人旅行者が情報を求めて集まっていました。カンボジア旅行者はタイにも行く人が多いので国境が閉鎖されたら一大事です
大使館は閉まっていました
我々は大使館のそばにある詰所っぽい建物(緊急用の受付?)にいたスタッフに国境の状況について確認しました
そしたらね
『今日は土曜日で休みだから月曜日に来い』
だって。それだけ、何も教えてくれないの
その場にいた日本人みんな「え……」絶句ですよ
土曜日だから?、いやいやマジで? 何も教えてくれんの?
天下の日本大使館ですよ。すぐそこで暴動が起きたんだよ。国境の閉鎖って、事実ならカンボジアから出られないんだよ。
こんな時にお役所仕事はないでしょうよ
そばにいたおっさんがマジ切れして「ふざけんな!暴動が起きたんだぞ。2日も待てるか! 困った邦人を助けるのが大使館の仕事だろうが!」
って怒鳴ってた
そしたら今度はそのスタッフ、
「今日はシンガポールからオーケストラが来るから無理だ」
だって
なんだろう、この温度差は。話がまったく噛み合ってない。オーケストラ云々と国境情報を教えないことに一体何の関係があるのか
我々が揉みあっていると本当にバスに乗ったオーケストラ御一行様が到着。なんかリッチそうな人たちが降りてきた
見た感じ日本人でした。いや間違いなく日本人ですね、日本語喋ってたので
全員バリッとした黒いフォーマルスーツでピシリと決めてます
オーケストラの皆様は不思議そうな顔で我々を見て、悠々と大使館の中へ入っていきました。腹が立つことに大使館の職員はオーケストラには態度がうやうやしいの。俺たちはガン無視
というわけで結局何も情報は得られませんでした
宿に戻ると宿泊客が相変わらず騒いでる
どうやら国境が閉鎖されたのは本当らしい。おまけにタイ行きの空路も閉鎖されているという情報が。いつ解除されるのか未定
「どうするんだ!このままじゃタイに行けないぞ!」
「オー、フ○ッキン&%$%’((&&」
「私たちどうなってしまうの……」
みんな凄く深刻な顔してるの。ちなみにセリフが日本語表記の人も外国人です、ニュアンスで適当に書いてます
しかし当時は気づかなかったけど今考えると違和感がありますね
なぜならこのジャンキーどもはこの宿でダラダラと過ごしてるだけでどこにも行く予定なんてなかったはず、それなのに今はタイに入国できないと騒いでる
私も彼らに同調して文句を垂れてました
「ったく、本当に困るよな。国境が閉鎖されたらタイに行けないじゃん」
さっき散々大使館をディスってたくせに、私はタイへ行く予定なんてありませんでした。しばらくここでダラダラしてベトナムにでも行こうと思ってたくらいです
つまりですね。誰もタイに行く気なんてなかったのに、国境が封鎖されたと聞いた途端「行けないじゃん」と不満を漏らすわけ。まるで自分が被害者にでもなったみたいに興奮してるの、変だよね
この不思議な心境はどう表現したらいいのか。いやそんな複雑な心情でもないか、つまり
あまのじゃく
あるいは
乗るしかないこのお祭り騒ぎに
我々のハートにはこの困難なミッションをどうにか突破してやろうという気概が生まれていたのです。問題児たちが国境閉鎖という巨大な壁を前に気持ちを一つにした瞬間でした
もちろんこんな事で気持を一つにしてはいけません。しかし我々はハイになって自分を見失っていました
この昂ぶりは暴動という非日常的な状況に置かれたことが原因になってたと思う。当時の私、めっちゃウッキウキでしたからね。テンションが明らかに普通じゃなかった
冷静に考えれば国境の閉鎖が解かれるまで大人しく待つしかないのです。しかし我々は誰一人冷静じゃありませんでした。
みんなは薬物のせいもあったかもしれんけど私はシラフで舞い上がってました
ようし国境を越えてやるぞ~
というわけでどうやってタイへ行くか話合いが行われました。ロビーを占拠されて宿のおばちゃんは迷惑そう
皆で知ってる限りの情報を出し合います
『〇〇村の西からは警備が手薄だから簡単に国境を越えられる』
『だったら◯◯の警備兵に賄賂を渡した方が早くないか』
『南の海からは?たしか高速艇があったよな、あれに乗ればこっそり上陸できるんじゃね』
ろくでもない案しか出ません。っていうか閉鎖された国境を越える時点で犯罪だし、ろくでもないのですが
ちなみに当時のカンボジア、ラオス、中国、ベトナムあたりはかなりいい加減な国境が存在していたのは事実です。まともに入国する時でも兵士に賄賂とか普通に求められることがありました
「国境は軍が集まってるんだよな、だったら戦車でも借りて突破するか?」
オランダ人が冗談めかしてそんなことを言ってます。笑ってるけど結構マジっぽいので怖い
「オー、それいいじゃない」
みんなも笑ってる。嫌な感じです。なんかノリで決めそうなんですよね。どの案が『合理的か』よりもどの案が最も危険で冒険できるかが判断材料になってる気がしました
それから議論は活発になりましたが、みんなアナーキーなアイディアばかりです
ちなみに当時のカンボジア軍は金さえ払えば戦車くらい貸してくれそうでした。ちょっと乗ったり運転させてもらえて1人300ドルだったと思う。少し金を握らせると「主砲も撃っていいぜ。うはは」と喜んでいたので兵器管理はずさんな印象があります
「そうだ!ヘリコプターで越えようぜ」
私はハイハイと元気良く手を上げて言いました。戦車より現実的だと思ったからです
ヘリを借りるアテなんてなかったけど、そこらの人間を札束で引っ叩けばどうにかなると考えてました。当時のカンボジアにはこういう勢いを実現できるカオスがあったのです
冷静に考えなくてもまったく現実的じゃないですけどね
だいたい両軍がにらみ合ってる国境の上をのこのこヘリで通過したら普通に撃ち落とされされます
万が一成功しても入国手続きを済ませずタイに入国したことがバレたら密入国です。当然逮捕されます
アホですね。でもみんなアホだったので私の案を咎める者はいませんでした
「オー! それ最高じゃない! 私ヘリなんて乗ったことないわ」
「よし空を越えるぞ、ヘリだ!」
「ヤマグチ! ヘリを持って来い!」
「あいあいサー!」
我々が本気だと知るとそれまで同調して騒いでた連中のほとんどが脱落。みんな急に冷静になって「おいマジかよ、それはちょっとヤベーだろ……」と腰が引けてる
薬物中毒の癖に生意気にも遵法意識は高いらしい
結局、空飛び組みは3人になりました。私と自称絵描きのフランス人と無職のオランダ人です
周囲のジャンキーどもは「やめとけ、冗談じゃ済まないぞ」と心配してくれました
しかし我々からすれば何言ってんだコイツらですよ
イモひく理由がわからない。意気地のない連中ですね。我々は、
いやいや国境が閉鎖されてるんだよ、なんで越えないの? いつ解除されるかわからないのにずっとこの国にいるつもり? 物好きだなあ~
と嘲笑ってました。
冗談でなく本当に自分たちが聡明でここに残る連中が馬鹿だと思っていたのです
そんなわけで私は早速近所の旅行代理店に行って「国境を越えるからヘリをくれ」と言いました。本当にヘリを借りることができました。代理店スタッフの電話一本ですよ。さすがカンボジア、アウトローな依頼も出前みたいにあっという間
操縦士つき。3人乗るなら1人400ドル
なんか高えなと思ったけどその時の私はとりあえずヘリに乗ってみたくてワクワクしてたので契約しました。前金で400ドルを払う
あたりまえですが……
この話のオチは言わずもがな、我々は国境を越えることができませんでした
理由は簡単です。紹介されたヘリ会社に金を騙し取られたから。おそらく旅行代理店もグルです
揉めに揉めたけどお金は返ってこず
馬鹿ですね。本当に……
冷静に考えれば国境を越えるなんてアホな依頼を受ける会社があるわけない
そんな当たり前のことに舞い上がりすぎた私は気づきませんでした
不幸中の幸いだったのは騙されて奪われたのは前金の400ドルだけだったことです。被害者は自分だけで済みました
前進するためには行動するだけでは十分ではない。
まずどの方向に行動すべきか理解している必要がある
ふう……
どうして私はあんなバカなことにトライしようとしたんだろ。本当に常軌を逸してたと思う
おしまい