2週間ほど前、26歳の男がストーカー行為をはたらき逮捕されました
被害にあったのはアイドル活動をしていた女性です
男は女性の住所を特定してあとをつけ、わいせつ行為をしました
この事件は話題になったので知ってる人は多いかもしれませんね
男がアイドルの住所を特定した方法が普通じゃなかったのです
アイドルは自身の姿をたびたびSNSに投稿していました
そこで男は女性の瞳を拡大して、そこに映った風景から自宅の最寄駅を特定。さらに彼女の自宅室内で撮影した写真から(カーテンの位置や自然光の入り方)を手がかりに住所だけでなくマンション、さらにどの階に住んでいるかまで見破ったのです
ストーカー、「瞳に映った景色」で女性の自宅を特定 日本 - BBCニュース
とんだ変態ですよ。その諜報能力を他にいかせなかったのでしょうか
2日前には国立九州工業大学の男性教授(68歳)が風俗店の女性従業員につきまとい逮捕されています。この男は女性に繰り返し愛人関係を迫り、お店を出禁になっていました
つまりこのプロフェッサーは既婚者だったようです
まったく困った連中ですよ
恋が暴走して振り回されるなんてまだまだ人間力が足りてませんね。精進してください
男前な田島さん
3年前に出会ったお客さんについて書いてみます。肩書きや名前は仮名です
趣向を変えて日記っぽく書いてみました
9月10日
今日は田島さんという新規のお客さんが来店した。45歳で独身の爽やか公務員だ。趣味はヨガとバドミントン。普段から食事に気を使っているらしくスタイルは良い。声はハキハキとしていていかにもスポーツマンらしい
要望を聞くと「胸板を厚くしたい」とのこと。バランスをとるために背筋や肩、腕も合わせて鍛えることを提案した。本当は下半身もしたいけど様子を見てからにしよう
田島さんは素直にアドバイスを聞いてくれるので面倒がない
トレーニングが終わると気に入ってくれたようで毎週通うと言ってくれた
うへへ、常連客をゲットだぜ
9月17日
前回に引き続き田島さんのトレーニングを実施。この人は週4でバドミントンとヨガをしている。それとは別にこうやって筋トレもしてる。かなりアクティブな人だ
ヨガは2年前からスタジオに通っているそうだ。どこのスタジオなのか聞いたら全国展開してる有名店だった。月謝が高い店だ。さすが独身公務員、金持ってるなあ……
9月24日
田島さんのトレーニング。まだうちに来て3回目のトレーニングだけどペースが早い。燃え尽きないか心配だ。どうやら自宅でも熱心に筋トレに励んでいるようだ
オーバーワークが怖かったので自宅でのトレーニングメニューを組み直して、休憩をとるように徹底させた
真面目なので目標の胸板を手に入れるのは早いだろう
10月1日
田島さんのトレーニング。トレーニングの合間に彼と会話をする機会が増えた。もともとお喋りが好きみたいだ。ヨガスタジオ、バドミントンサークルの話を楽しそうにしてくれる。仕事は管理職で大変そうだが、大きなイベントの誘致に関わるプロジェクトを任されているのでやりがいはあるそうだ
10月5日
今回から週2回トレーニングをすることになった。田島さんの要望である。儲かるのでこっちとしてはありがたい
筋トレにどっぷりはまったようだ。この人は本当に指導が楽だ。俺が鼓舞しなくても淡々とメニューをこなしてくれる。雰囲気が明るいので話しているとこっちまで元気になる。顔も悪くないし、どうして独身なんだろう?
10月8日
田島デー。筋トレは順調。すっかり打ち解けた田島さんはよく喋る。話題は通ってるヨガスタジオの話が多い。どうやらインストラクターの1人と仲が良いようだ。Aさんという30歳の女性である。
なんとなく田島さんはAさんのことを気に入ってるような気がする。会話全体に占めるAさんの話が多いのだ
本人に冗談っぽく突っ込んだら「そんなことないと思いますよ」などと他人事のように飄々としていた。あれれ、俺の勘違いか。まあいいや
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10月18日
間違いない、やはり田島さんはAさんが好きみたいだ。本人はすっとぼけてるけど、会話のほとんどがAさんのことばかりだ。『Aさんとこんな話をした』とか『Aさんに逞しくなったと言われた』とか『ヨガ終わりにちょうど仕事が終わったAさんと駐車場で一時間も話してしまった。出張のお土産が余ってたのであげたら凄く喜んだ』とか
自覚してないのかもしれんけど、彼は無意識に自分とAさんがいかに繋がりがあるかをアピールしている。そして俺に「仲が良いですね」と言われることを望んでる
うっしし、それで良い気分に浸れるならいくらでも言ってやろう。なんせお得意様だからな
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1カ月後
11月18日
田島デー。筋トレは順調。田島さんの大胸筋はかなりごつくなってきた。会話は相変わらずヨガスタジオの話ばかりだ
……でも、気のせいかな、最近はAさんをディスってるようなワードがちょいちょい混じってるんだよな
『インストラクターの癖にぽちゃっとした体型』とか『顔がぱっとしない』、『佐賀県の〇〇町とかいうド田舎出身』
などだ。冗談っぽく言ってるけど、以前の田島さんならばそういうことを言わなかった気がする
まあ笑顔で言ってるから悪口じゃないだろう。ガキンチョが好きな女の子に天邪鬼でちょっかいをかけるようなものかもな
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11月25日
田島デー。筋トレの合間に田島さんが「ヨガスタジオを辞めたんですよ」と言った
ポロッとそう言っただけで特に感慨がある様子でもない
あれだけ熱心に通ってたのにそれが嘘のようにあっさりとしてた。こっちも「へえ、そうなんですね」と軽く流した
意外と熱しやすく冷めやすい人なのかもしれないな。ここを辞める時もこんな感じかも
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12月2日
田島デー。田島さんがヨガスタジオを辞めたのはちょっとしたトラブルが原因だったようだ
田島さん曰く
どうやらAさんが仕事の愚痴を田島さんに漏らしたところ、田島さんがスタジオの他のスタッフにその内容をうっかり喋ってしまった
田島さんは明るい性格なのでスタジオの全スタッフと気安く喋れる間柄だったのが裏目に出てしまった
当然そのことはAさんの耳に入った
Aさんの愚痴はありきたりな内容だ。長時間労働に疲れたとか給料が安いとかそんな感じの。特に誰かを傷つけるようなものじゃない
だけどAさんはお客さんである田島さんについ愚痴を漏らしてしまった事、必要以上にお客さんと親密になってしまった事。それらについて反省した。自分の責任を痛感したようで職場に辞めると申し出たらしい
それを聞きつけた田島さんは「今回の責任は自分にあるから自分が辞める」とAさんに言った。そしてすぐに実行した
そんな話を田島さんはあっけらかんとしてくれた
「いやあ、口が軽いのは自分の短所です。今後は気をつけようと思います」
2週間後
12月16日
田島デー。田島さんは相変わらずよく喋る。内容はヨガスタジオについてだ。もう辞めたのに通っていた頃の話を色々としてくれた
もしかしてまだ未練があるのかなと思ったので
「復帰したいならもう一度入会してみては……」
と言ってみた。元々彼が勢いで辞めた感じなので再入会すると言えばヨガスタジオが拒否することはないと思う。Aさんがどう思うかはわからんけど
しかしAさんは
「いえ、マンネリしてたので別のスタジオに通うことにします。今は良い感じの店を探している所です」
ということらしい
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12月23日
田島デー。今日は田島さんに変な相談をされた
「私がヨガスタジオを辞めたのは理屈に合わないと思うけどヤマグチさんはどう思いますか?」
彼はそう言った
意味がわからなかった。スタジオを辞めたのは田島さん自身の選択である。誰かが強制したわけじゃない。なのに彼はまるで自分が辞めさせられたかのように話す。しまいには
「会社の業務内容を外部の人間に漏らすというのは社会人としてあるまじき行為ですよ。公務員だったら最悪首です。それなのにAさんは辞めずに私が辞めることになるとは……」
うん?
確かにAさんは田島さんに仕事の愚痴を漏らした。業務内容といえば大袈裟かもしれんけどそうともいえる。でもそれをさらに漏らした当人が言うとは……
まさにおま言うである
俺はどう答えればいいかちょっと迷ったけど、色々考えずに質問だけに答えることにした
「田島さんが辞める必要はないですよ。復帰したければもう一度入会すればいいと思います」
「しかし、それじゃAさんが辞めることになってしまう」
「別にAさんが辞めても構わないでしょ。それはAさんの問題ですよ」
「い、いや、まあ、そうだけど……」
なんだか歯切れが悪い。ちなみにAさんと田島さんは辞めてから一度も会ってないらしい。2人は互いの携帯番号も知らない
田島さんは少し考えてから再び言った
「そもそも私が辞めると言った時、Aさんは『すみません田島さんに迷惑をかけてしまって……』と言うだけでした。これっておかしいですよね? 客がインストラクターの責任を被って辞めるとかありえないですよ」
ん? 何を言ってるんだこの人? だから辞めるのが嫌なら再入会すればいいと言ってるじゃん
噛み合わない会話を続けることしばらく、ようやく理解できました。といっても彼がそうだと認めたわけじゃなくニュアンスを読み取っただけですが
ようするに田島さんは『自分が辞める』と言った時、Aさんに引き止めて欲しかったらしい
それなのに彼女はあっさりと引き下がった
彼からすれば今まで仲の良かった彼女のこと、必死に田島さんに「辞めないでください」とでも言うと思ってたようだ
でも現実は残酷である。つまりAさんにとって田島さんはちょっと仲の良い客というだけだったわけで。そこまでする存在じゃなかった
そして恐らくだけど田島さんはそのことに気づいてる
彼がAさんに対して恋愛感情があったのかはわからない。たぶん少しはあったと思う
田島さんは彼曰く『Aさんというそれほどぱっとしない女性』に相手にされなかったことで自尊心を傷つけられたんだと思う。あるいはAさん程度の女なら自分に惚れて当然だと思ってた
やり場のない怒りを『従業員の不始末を自分が負った』と事実を捻じ曲げることではけ口にしているのだ
もしかして……
12月26日
田島デー
「今日の昼頃かな、Aさんが自宅に戻ってるところを見かけました」
急にトレーニングを中断した田島さんはそんなことを言った。そこまでして話さないといけない内容なのか疑問だったけどすぐに思い直した。彼はAさんにこだわってるのだ
それよりも俺は引っかかるものを感じた
「田島さんはAさんの自宅を知ってたんですか?」
田島さんとAさんはプライベートな交流はなかったはずだ。なぜ彼がAさんの自宅を知っていたのか不思議だった。それに昼頃って言ってるけど今日は平日だぞ。アンタ仕事はどうした?
「……仕事で外出した時にたまたま見かけたんですよ」
田島さんは笑顔でそう言った。ニコニコしたまま
「彼女すっごいボロいアパートに住んでましたよ。あんなとこ、私なら絶対に住めないなあ、まあ、高卒でおまけに〇〇高校ってバカで有名な高校出身でしょ。それじゃ薄給のヨガのインストラクター程度にしかなれませんよね」
うるせえ、そこは俺の母校だぞ
まあバカは否定せんけど
しかし田島さんはAさんの出身高校まで知ってるらしい。もちろん以前に彼女との会話で知ったのかもしれんけど
……
田島さんってこんな感じで笑う人だったっけ?
なんか瞳に闇属性が混じってる気がした
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年が明けて
1月4日
田島デー。……しかし田島さん、最近ちっともトレーニングをしてくれない。お金を払ってここに来てるのに
ずっと喋ってる
内容はAさんのことばかり。具体的にはヨガスタジオに通ってた頃の彼女との出来事が二割、悪口八割。昔話をしてると最後は必ず悪口になる
俺はうんざりしたので話題を逸らそうと
「そういえば正月連休は何をしてたんですか?」
と言った。田島さんが会話に乗るか微妙だったけど意外にも彼は答えてくれた
「え、連休ですか? 県外に出かけてましたよ」
「おっ、旅行ですかいいですねえ。どこまで行かれたんですか?」
「佐賀県の……たしか……〇〇って町です」
「〇〇? へえ、佐賀にそんな町があるんですね」
佐賀に詳しいわけじゃないけど、まったく聞いたことのない町名です。たぶんすげえ田舎だと思う
「写真撮ってきましたよ。見ます?」
「え……」
私の返事を聞くより早く田島さんは更衣室まで行ってスマホを持ってきました
彼はスマホのアルバムをシャカシャカと捲って私に見せてくれました
「……」
画像は何十枚もあったけどそのほとんどが田んぼしかない風景と一緒に写った一軒の古い民家。特に観光地のような雰囲気はない。民家は点在しているが、映っているのは同じ民家の写真ばかり
軒先には洗濯物が干されてる
「これ……なんの写真ですか? 普通の民家ですよね……」
私が不思議そうにしてると田島さんは屈託のない笑顔を浮かべました
「この民家、笑っちゃうくらいボロいでしょ。誰の家だと思います?」
彼はケラケラ笑ってました。俺は顔が引きつってたと思う。この人がこうやって侮蔑するのはAさんが関係する時だ。Aさんは現在佐賀県には住んでない。つまり……
「これって……もしかしてAさんの実家……ですか」
「おお! すごい! よくわかりましたね」
田島さんはグーグルマップを持ち出してAさんの実家がいかにド田舎で経済的に価値のない集落であるかを熱く語り始めた。実家はここから車で三時間はかかる場所だ
わざわざあざ笑うためにお出かけしたみたい
彼の解説によると、Aさんは家庭の事情があり中学を卒業するとA県に住む伯母と暮らし始めたそうだ。県外出身なのに高校が俺と同じなのはそういう理由だ
「Aさんは――」
喜々としてAさんをディスる田島氏。育ちが悪いから朝鮮人の血が入ってるとか色々言ってる
俺の友人の韓国人が聞いたら頭をかち割るだろうな
彼は自分の行為がおかしいことに気づいてない。Aさんの実家なんて俺にも田島さんにも全く関係ないだろうに
ここまで執着できるなんて異常だ
おまけに彼はAさんの家族構成やどこで手に入れたのか信用情報まで知ってた。CICは本人しか開示できなかったよな。なんで知ってるんだ?
やべえ、コイツはやべえぞ
後編↓に続く