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【重力が衰えるとき】近未来イスラム世界を描いたサイバーパンク小説の傑作:おすすめSF小説紹介

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ネットでおすすめのSF小説を検索すると必ず挙がっている作品

未来のイスラム都市、ブーダイーンを舞台にしたハードボイルド小説です

イスラム圏のSF?と思う人もいるでしょう。確かにこういう設定のSF小説は少ないかも

未来技術がもたらす人々の倫理観の変化と、それを教義に収めてどうにか解釈しようとするイスラム社会の対比が面白いです。ドラッグや犯罪が蔓延する退廃した未来感がいかにもなサイバーパンクっぽい世界観を作り出しています

全三部作ですが、この作品だけでストーリーは完結しているので十分に楽しめます

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抽象絵画のような表紙と変わったタイトルが目を惹きますね。机の上に置いとくだけでもお洒落。この装丁は新版です。昔の表紙はもっとコミック調だった気がする

著者はアラブ系アメリカ人のジョージ・アレック・エフィンジャー

発表されたのは1987年、日本語訳が早川書房より刊行されたのが1989年

意外と古いな。30年以上前の小説になるのか……

私が初めて読んだのは20年ほど前です

現在ではサイバーパンクというジャンルがちょっとレトロで、定番ともいえる電脳移植を描いた作品にも関わらず不思議と読んでいても古さを感じません

古典といっても差し支えない作品です。それでも古臭さを感じないのは名作に通じる特徴だと思います

ちなみにサイバーパンクの圧倒的代表作といえば、ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』。面白いのでこちらもおすすめ。そのうち紹介します

 

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海外のSF小説は変わったタイトルが多いですよね。タイトルを見ても内容がまったく想像できないし

以前、本を読まない知人が『重力が衰えるとき』の表紙を見て

「こういう本ってさ、どうやって内容を判断して買うの?」

と不思議そうにしていました

言われるまで気づかなかったけど、たしかに

今はネットで内容を調べるからどんなタイトルでも気にしないけど、昔はどうしてたんでしょうね。『重力の衰えるとき』じゃさっぱりわからない

あらすじ

2172年、世界各国が分裂していくつもの小国が興った未来世界

繁栄を誇る犯罪都市ブーダイーンのナイトクラブで探偵のマリードは人捜しの依頼を受けます

しかし依頼主の男は不意に現れた殺し屋によって射殺されてしまう。殺し屋は架空のキャラクター、ジェームズ・ボンドの人格を脳に移植した奇妙な男でした

その日を境にマリードの周囲では近しい仲間や売春婦が次々に惨殺されます。事態を重くみたイスラムマフィアのボス、パパはマリードに犯人の捜査を命じるのですが……

腐敗した犯罪都市で様々な思惑に翻弄されながら事件の核心に迫っていくマリード

 

こう書くとハードボイルドって感じですけど、この主人公はかなりのヘタレです。世渡り上手ともいえる

武器を持たず一匹狼を気取りながら長い物に巻かれる。言い訳しては簡単に信条を曲げます。皮肉ばっかり言ってなかなか行動しません。おまけにドラッグ中毒で薬がないとシャキっとならない

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見どころ

ストーリーとイスラム都市ブーダイーンの文化や日常が半々くらいの分量で描写されています

ストーリーパートは成り行きまかせに事件に巻き込まれていくマリードの姿。マリードに関わる人物は癖があり過ぎて一度登場するとまず忘れません。脳味噌を改造して常にラリってる薬中のタクシー運転手なんて屈指のキャラだと思う

 

ブーダイーンの描写はそこで生きる住民や売春婦の日常であったり、宗教的な背景が丁寧に描かれています。街はとにかくいかがわしく、胡散臭い雰囲気。治安を担う警察も腐敗してます。また人食い人種とか一般的でない人種も多数登場します

自分のようにイスラム圏の文化を知らない人間にとっては外国の空気に触れたようでワクワクして読めました

ただしあくまで架空の未来世界の話なのでイスラム文化を正確に描写しているわけじゃないと思う。例えば性転換が容易な世界なので宗教的に男の扱いが難しく独自の解釈をしている

作中では登場人物が頻繁にコーランを引用し、アラブの格言が飛び交います。『アッラーの思し召しがありますように』等。犯罪都市で飛び交うこれら教義や説教が実にインチキ臭いのです。誰もがイスラム教を信仰しながらアッラーを都合よく利用しているフシがある。生活の知恵ですね、住民たちの逞しく生きる姿には感心します

 未来感を演出するギミックの数々

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神経麻痺銃や立体ホログラム、電気自動車は現実世界で実用化されているので珍しさはないかな

 

やはりサイバーパンクといえば電脳移植でしょう

 

ブーダイーンの住民はほとんどが脳味噌に配線を繋げて人格モジュール(モディ)や拡張機能(ダディ)のソケットを埋め込んでいます。データを購入して差し込むことで様々な人格になりきったり、学習することなく専門知識を得ることができるのです

人格モジュールがあることで望みのキャラクタ―になれるため売春婦にとっては必須のアイテムです。これがあれば客の要望に応えられますからね

この機能を使うことでマリードはネロ・ウルフになりきり事件を推理するシーンがあります。黄色いパジャマや蘭を欲しがるなど芸が細かい

ネロ・ウルフはレックス・スタウト作の有名な私立探偵です。美食家でめちゃ太ってる。動けないのでいつも推理は自室に籠ったまま行います

性別を容易に行き来する人々

ブーダイーンでは多くの踊り子や売春婦が働いています。彼女たちの存在が作品世界の空気を作り出してるといっていい

この世界では骨格を弄ったり性器を改造することが技術的に容易(手術代は高額)であるため、彼女たちの性別はバラエティに富んでいます

完全に性別を変えた者を『性転』、一部だけ手術で弄った者を『半玉』、純粋な女性『本女』等、独自のスラングで表現されてる。ちなみにマリードの彼女は性転した元男です

まとめ

 脳に配線して人格をころころと変えることができる。性別は容易に変更可能

こんな世界だと人間的な弱さを克服するのは簡単だし、アイデンティティを保つのに苦労しそうです

自分が失われた状態、生きがいは希薄になると思う

 

しかし不思議というか、この作品の魅力でもあるのですが、これだけ科学が発達して人々の価値観を変えているにも関わらず、作中に登場する人々はずる賢くて抜け目なくて生き生きとしています。もちろん脳を弄り過ぎて不幸になった人間もいる

主人公や街の住人は技術の進化を享受しながらも相変わらず悩み、人間の弱さを露呈しているのです。その原因は様々。お金、恋人関係、友情、道義信条

 

ありていな表現をさせてもらうと、人間の営みが確かにある

ラストのほろ苦い孤独感なんてまさにそう

 

作品の魅力はそこに尽きるのだと思います

映画化されたら面白そうなんだけどな。有名作だけど不思議とそんな話を聞かないです

どうせならSF大作にせず、タランティーノに監督して欲しい

ちょっと変わった名作SFが読みたい人におすすめする一冊です

おしまい

www.imbroke-s.com

 

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