ダメラボ

ロスジェネのダメなおっさんが色々と妄想していますよ

【ロング・グッドバイ】を再読したけどやっぱり面白い:おすすめハードボイルド海外小説

スポンサーリンク

f:id:imbroke:20191206002711j:plain

買ってから3回目の再読です。レイモンド・チャンドラーの代表作

淡々と、それでいて洗練された文体はするすると読めてしまう。作品世界に没頭するというよりも上質な映画を観ているように楽しめる作品です。小説のこういう楽しみ方を知れたのはこの作品のおかげ

清水訳と村上訳の2作ある

日本ではロング・グッドバイの以前に『長いお別れ』というタイトルでも作品が発表されています

この2作の内容は同じです。違いは訳者

 

  • 『長いお別れ』訳者:清水俊二 初版1958年
  • 『ロング・グッドバイ』訳者:村上春樹 初版2007年

 

清水俊二は映画の字幕翻訳を2000本近く手がけた大御所です。戸田奈津子の師匠としても有名。海外小説の翻訳にも多数携わってます。私が知ってる作品だと『麗しのサブリナ』とか『そして誰もいなくなった』

チャンドラー作品の翻訳はほとんどがこの人だったと思う。違ってたらすまん

 

村上春樹は言わずと知れた超有名作家ですね。毎年ノーベル文学賞の候補に上がってる人。『ノルウェイの森』『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』『ねじまき鳥クロニクル』代表作を挙げたらきりがない。ちなみに私はねじまき鳥が好き

村上春樹は作家活動だけでなく翻訳もしています。私が好きな作品だとトルーマン・カポーティの『誕生日の子供たち』、フィッツジェラルドの『グレート・ギャッツビー』がそうです

彼はチャンドラーの大ファンです。作家として影響を受けたことを公言しています

そんなわけで本作に限らずチャンドラー作品の翻訳を多く手がけてる

 

つまりチャンドラー作品は清水訳と村上訳が日本では出回ってます。タイトルは同じ場合もあればちょっと違うものもある

 

賛否両論あるようですが、私は清水訳も村上訳も好きです。英語はさっぱりわからんけど、どっちも楽しめました

 

今回は村上訳のロング・グッドバイを紹介します

 

超有名作だから知ってる人も多いと思うけど知らない人に少しでも魅力が伝われば

f:id:imbroke:20191206010159j:plain

帯の推薦文は世界のカズオ・イシグロ。ノーベル賞作家です

まずは簡単に作家と作品紹介から

著者はレイモンド・チャンドラー

ダシール・ハメットやジェームズ・M・ケインと共にハードボイルド探偵小説の生みの親といわれる作家の1人です

こう書いてもピンとこない人は私立探偵フィリップ・マーロウの生みの親といったほうがわかるかもしれません。ハードボイルドな探偵キャラの中ではトップクラスの知名度がありますからね

チャンドラーはマーロウを主人公にした作品を長、中編と合わせて9作以上発表しています。ロング・グッドバイはその中の一つです。発表されたのは1954年

 ハードボイルド

ハードボイルドな男といえばトレンチコートを着てバーでグラスを傾けるイメージがあるんじゃないでしょうか。あれはハンフリー・ボガード演じる探偵フィリップ・マーロウの映画『三つ数えろ』から出来上がったイメージです(厳密にはもう一作品あります『マルタの鷹』。ダシール・ハメットの探偵小説が原作です。この映画もハンフリー・ボガードが主演を務めています)。原作はシリーズ初期の『大いなる眠り』

ちなみに作中ではバーのシーンはあってもトレンチコートを着たシーンはなかったような……。もしかしたらあるのかもしれないけど定番シーンになるほど頻繁に登場するアイテムではないです

なんて偉そうに言ってるけど自分が読んだのは5冊だけですが…

 誰もが知ってる有名な台詞を紹介

フィリップ・マーロウのシリーズに出てくる有名な台詞を三つ挙げます

 

『武器を返してやる、清掃、充填済みだ。だがいいか、撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ

『大いなる眠り』より

 

「あなたの様に強い人が、どうしてそんなに優しくなれるの?」というヒロインの問いに対して。

タフでなければ生きて行けない。優しくなければ生きている資格がない

(訳者によって微妙に違います) 『プレイバック』より

 

さよならをいうのは、少しだけ死ぬことだ

(訳者によって少し違う)『長いお別れ』『ロング・グッドバイ』より

 

『さよならをいうのは、少しだけ死ぬことだ』

痺れるセリフだけど私が使うことは一生ないでしょうね

この台詞については少し補足を加えます。その方が良さがわかるので

19世紀のフランスの詩人、エドモン・アクロールの詩が元ネタです

 

さよならすること、それは少し死ぬこと

それは愛するものへの死

いつでもどこでも、人は自分自身を少し残して去っていく

『さよならの詩』より

 うーんまさにハードボイルド。詳しい説明は野暮なので省くぜ。そのままの意味だぜ

 

人は別れる時、少しだけ自分を置いて去っていく

 

彼女に振られた時に使ってみましょう

スポンサーリンク
 

あらすじ

テリー・レノックスとの最初の出会いは〈ダンサーズ〉のテラスの外だった

こんな独白から始まるマーロウとレノックスの最初の出会い。舞台はロサンゼルス、1949年

 泥酔したレノックスを介抱したマーロウは彼の物腰から漂う品の良さ、どこか危うく儚い魅力に惹かれ飲み友達となります

顔に大きな傷のあるレノックスの妻はアメリカでも指折りの大富豪の娘でした

なにやら複雑な事情を抱えてそうだが多くを語らないレノックス。マーロウも詮索しない

行きつけのバーで静かに杯を重ねる2人

 

1950年のある日、深夜にマーロウの自宅を訪れたレノックスはメキシコのティファナへ行くので空港まで送って欲しいと頼み込む。レノックスは憔悴しきった様子。何かあったらしい

しかしマーロウは事情を深く聞かずに彼を送り届けます

自宅に戻ったマーロウを待っていたのは妻殺しの容疑でレノックスを捜している2人の刑事でした

レノックスの共犯だと疑われたマーロウ。彼は留置所に叩き込まれます

しかしマーロウはどれだけ酷い扱いを受けても、取調べではレノックスを庇い黙秘を続けるのでした

3日後、メキシコからレノックスが自殺したという情報が届く。罪を自白する遺書も残されていたという

それによってあっけなく事件は解決し、マーロウは釈放されます

レノックスが自殺?、唖然としたまま自宅に戻ったマーロウ。家には生前のレノックスから一通の手紙が届いていました。そこに書かれた内容とは……

見どころ

f:id:imbroke:20191206012755j:plain

まずいつもの褒め言葉ですが、素晴らしい作品はどれだけ古典でも古びない。この作品もそんな作品の一つです。作中では1950年のロザンゼルスが描かれているけど垢抜けた現代的な街並に思えてしまう

ボリュームたっぷりの小説です。かなり分厚いハードカバー。しかし構成が巧みで話が常に動いているので飽きて途中で読むのを止めてしまうことはない

 

強引に幕引きされた友人の事件。その後、マーロウはとある出版社からの依頼を引き受けることになるのですが、そこで起きた出来事が意外な進展をみせ…

 

作者のチャンドラーはパルプ・マガジン出身の作家です。パルプ・マガジンとはアメリカで広く出版された安価な大衆向けの雑誌の総称。大衆誌なので掲載作は低俗の謗りを受けることがあったらしい。しかしそれは言い替えれば大衆に飽きさせない構成に特化した作品を作り上げてきたともいえる

雑誌で腕を磨いたチャンドラーの卓越した構成力がロング・グッドバイでは遺憾なく発揮されています

展開は早く、登場人物は多いし好き勝手に動き回ってる感じですが最終的に一つの物語を形成していく……ようなそうでもないような、まあそこは置いておいて

 

読後は感傷的な気分にさせられます。すっきりとしたラストです

後味はビターだけど決して悪い気分じゃない

 

最後、マーロウととある人物のやり取りは控えめに言っても名シーンです

 

もし村上春樹の作品が「終わり方が尻切れトンボで苦手」と感じてる人でも安心して楽しめますよ。この作品はあくまでチャンドラー作品で村上氏は訳者ですから

 

さっきチャンドラーはパルプ・マガジン出身と書きましたが、文章は滅茶苦茶洗練されています。そのおかげで登場人物はクズい奴も含めて非常に印象に残るのです。台詞回しがいちいち洒落てる

主人公のマーロウは一見無口なハードボイルド野郎だけど、口を開けば皮肉屋だし案外感傷的で女々しくもある。これは読み直したことで気づいた点です。最初に読んだ10年前はハードボイルド小説を読んでいるという先入観があって実体以上にマーロウをクールな男だと捉えてしまいました

ところが読み直すとそうでもない。意外と短気だし流せばいいようなことまで噛みついてしまう。結構うざい

 

もしかしたらこの10年で私の方ががハードボイルドに成長したのかも…

 

人によってこの小説の楽しみ方は色々とあるはずです。純粋にストーリーを追うのもよし、主人公のマーロウ視点で没入するもよし

私はマーロウ視点で彼を含めた様々な登場人物の群像劇を観るような感覚で物語を読み通しました。それほどモブキャラを含めて魅力的に描かれているのです。作品の都合で生み出されたような単純なキャラは1人もいません

 

読み終わると濃密な時間から解放されたような心地よい徒労感がある

 

特にロング・グッドバイはチャンドラー作品の中でも傑作の呼び声高い名作。当時の主流文学にミステリーを混ぜることに成功した作品です。それでいて堅苦しくなく、世界中の本好きが納得するだけの娯楽性が詰まってます

 有名だから批判もあるよ

チャンドラーは今日では大変評価の高い作家ですが、もちろん批判もあります。批評家だけでなく、アマゾンでもよく書き込まれるダメ出しに

 

物語が散漫で一貫性がない

 というのがあります

 

これね、たしかにそうなんですよ。読み終わってストーリーを思い出してみると『よく考えたらあの展開って別にいらんよね』と気づくことがある

またマーロウ作品はシャーロックホームズのように超絶な観察眼と推理で事件を追うような物語ではないです。どちらかというと巻き込まれて目の前の出来事を処理していくうちに真実へと繋がるという話が多い。話の中には余計な寄り道もある。一貫性がないと言われればそうかも

 

でも、読んでる最中は気づかない。どのシーンも無駄なく面白いから夢中で読んじゃう

 

私には散漫で一貫性のなさが物語に厚みを出してるように感じます。もちろんこれはチャンドラーの叙情的な文章、シャープでウィットに富む喩え表現があってこそですが

まとめ

本書の最後には訳者である村上春樹のあとがきが書かれています

これがなんと40ページ超もある。もうこれでもかとチャンドラーとロング・グッドバイの魅力を語っています。また翻訳する上で注意したことなどが細かく書かれてる

f:id:imbroke:20191206025046j:plain

本当にチャンドラーが好きなんだなと感じられて特にファンでもないのに私までなんだか嬉しくなります。熱烈な思いがひしひしと伝わってくる

英語のことはさっぱりわからないけど、これだけ楽しそうに作品を語る村上春樹が真摯に訳したのだからそれだけでも読んでみる価値はあると思う

というわけで読んだことない人にはおすすめしますよ

おしまい

www.imbroke-s.com

 

ブログランキング・にほんブログ村へ