いつも外国のSF作品ばかり取り上げていたので国内作品を紹介
『タイム・リープ あしたはきのう』は1995年に発表されたライトノベルです
タイム・リープ。すなわち肉体はそのままで意識や記憶だけが時間移動するタイムトラベルを題材にしています
著者は高畑京一郎。タイムトラベル物として非常に評価の高い作品
アマゾンでも多くの人が高評価をつけています
1997年に同名で実写映画化されました。主演は佐藤藍子
懐かしい女優さんですね。彼女の映画初主演作品です
どうでもいい話ですが、当時の私は彼女みたいに耳の大きな女性が好きでした
しかし映画はぱっとしません。せっかく大林宣彦が監修したのに……
私の感想もうーんって感じです。個人的には原作のほうが面白かったかな。というか原作の完成度が高すぎます
高畑京一郎ってどんな人?
私はこの小説を読むまで高畑京一郎という作家を知りませんでした
経歴を調べてみると
- 1994年に第1回電撃ゲーム小説大賞(現在の電撃小説大賞)で金賞を受賞しデビュー。受賞作品は『クリス・クロノス 混沌の魔王』
- 1995年、『タイム・リープ あしたはきのう』
- 1999年、『ダブル・キャスト』
- 2001年より『Hyper Hybrid Organization』シリーズを2005年まで発表してますね。こちらの作品は外伝を含めて6巻。まだ途中です
ライトノベル一本でやって来た作家さんのようです。作品を見る限りSF寄りの作家さんかな
とにかく筆の遅い作家としてファンの間では有名らしい。しかし作品の質は常に高く、発表した作品は外れがないため、熱心なファンが多い
文章はきっちりしてて隙がなく、いかにもSF作家っぽい文章です
しかしタイム・リープはお堅い作品じゃありません。読んでいても詰まるような難解な描写はなし
ザ、タイムトラベル青春物です。ライトノベルなので非常に読みやすい
この作家さんの凄い所は、目まぐるしく変化する展開とそれに絡む複雑な時間移動をびっくりするほどわかりやすく描いていることです
時間移動に伴う散らばった伏線がパズルのようにはまり込む瞬間が随所にあるのですが、それに気づくたび
おい、すげえなこの作家
ってなります
本当に頭の良い人なんでしょうね
それだけじゃなく時間移動を題材にした名作が必ず纏っている空気感
『夏への扉』や『時をかける少女』のようなノスタルジックさも感じさせてくれます
天才かよ
青春物ではありますが、主人公の女子高生に突如発現したタイムリープ能力の謎に迫る一週間を描いたサスペンス小説でもあります
緊迫感があり、終盤にかけて収束していくの疾走感はサスペンスの醍醐味です。怒涛の伏線回収に背筋が震えちゃいますよ
でも作品全体に漂うのはどこか懐かしく
甘―――い、青春臭ですよ。タイムリープ能力に戸惑う女子高生と彼女を助ける同級生のクール少年は腹が立つほど青春してますよ。なんだコイツらって感じですよ
どうせ最後は付き合っちゃうんだろ、ああん
などと、暗い青春を送っていた大人ならギリギリすること間違いなしの一品
冗談ですよ
あらすじ
平凡な女子高生、鹿島翔香は朝起きて登校すると混乱してしまう
今日は月曜日のはずなのにクラスメートが火曜日だと言うのです
そんな馬鹿な、昨日は日曜日だから今日が火曜日な訳がない。困惑する翔香
しかし誰もが火曜日だと言い、教師は火曜日の授業を始めました。流石に翔香も火曜日だと認めざるをえませんでした
クラスメートは昨日(月曜日)の学校での翔香の様子を話してくれました
驚いたことに、翔香は普通に学校に来ていたらしい
クラスメートの語る翔香の行動は彼女の身に覚えがないものばかりでした
なぜ月曜日の記憶を失っているの?
気味の悪さを押さえられない翔香。帰宅すると藁にもすがる思いで普段からつけていた日記を確認してみます。すると昨日の日付には
『あなたは今、混乱している。あなたの身になにが起こったのか、これからなにが起こるのか、それはまだ教えられない。若松くんを頼りなさい――』
と自分の筆跡で書かれたメッセージが。もちろん自分が書いた記憶はありません
なぜ若松君?
若松和彦は校内でもトップクラスの秀才。翔香のクラスメートですがほとんど話したことはありませんでした
水曜日。訳がわからないまま翔香は和彦に相談します。しかしクールな和彦は「何を言ってるんだ」と呆れるばかりでちっとも取り合ってくれません
冷たい和彦の態度に憤慨する翔香でしたが、彼女は不意に不思議な現象に襲われ、気づくと世界は木曜日になっていました
混乱する翔香は再び和彦に会います。すると和彦は何故か事情を察してるようで意外な言葉を翔香に発するのでした――
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見どころ
物語は翔香の火曜日から始まり、彼女が未来や過去にタイム・リープすることで進んでいきます。行き来するのは一週間という小さい範囲です。舞台はほとんどが学校とその周囲だけ
つまりタイムトラベル物ではありますが、いわゆるセカイ系の物語ではありません
セカイ系とは主人公たちの小さな物語が世界全体に大きな影響を及ぼすのようなストーリーです
アニメだと『サマーウォーズ』とか『涼宮ハルヒの憂鬱』とかになるのかな
これらの物語は一都市に住む主人公たちの行動が世界の命運を握るような大きな話になっちゃいますよね。本作はそういう話じゃないです
あくまで主人公とその周辺だけで物語は完結します
描かれる世界が小さいからこそ、ストーリーは非常に濃密に構成が練られています
まず、タイムトラベル物にありがちなタイムパラドクスを極限まで削れていることです。徹底して矛盾がないようにタイム・リープの設定を作っています
タイムトラベル物って読んでると、ん? ってなる時ありますよね。矛盾が引っかかって物語に没頭できなくなるの。この作品にはそれがありません
全部説明するとネタバレになるので一部だけ
この作品におけるタイム・リープは同じ時間帯には戻れません
翔香は一度経験した時間帯に再びタイム・リープすることはできないようになっています。この設定がタイムパラドクスのリスクを減らし、物語を面白く転がします
他にもおもしろい設定があるのですが、それは作品を読んで確かめてください
SF好きの間では本作がタイムトラベル物の小説でもっとも優れているという人もいるほどです
すごいよこの作家さん。構成力がお化けです
翔香はとある感情が起こることでタイム・リープしてしまいます。そうなってしまった理由はとある出来事が原因なのですが
すみませんね、『とある』ばっかで
説明が難しいな、ここを説明するとオチがバレちゃうのですよ
とにかく伏線の張り方がすごいのよ、オラびっくらこいた
翔香と和彦の関係
最初は仲良くないです
タイム・リープする条件が翔香のとある感情に関わるため、それが和彦と翔香の信頼関係を築くきっかけになり、2人の距離が縮んでいくことに
一週間という極めて短い時間の話ですが、お互いが急接近することに違和感はありません
さっきも話しましたけど、のんびりしたストーリーじゃありません。次第に主人公の身に危険がせまります
そこを若松少年が華麗に謎を解いて翔香を助けるのですが
完璧超人すぎてちょっとムカつきます
でも彼は良い奴です。スカした男ですが
まとめ
読みやすくダレた展開がないのであっという間に読み終えますよ
この作品はライトノベルというジャンルですが。本格SFと言っても差し支えないと思います
それほど高畑京一郎の構成力、発想力、文章、どれも素晴らしいです
まず一度何も考えずに読んで、次に読むときはオチを理解した上で読むと、作品の凄さがよりわかると思います
凄い作家さんなのですが寡作すぎて名前があまり売れてないようですね
良い機会なので他の作品も読んでみようと思います
おしまい